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第3話 「魔王様、行動方針を変える」

前話のあらすじ:狼族の勇者に敗北しました。

「……ん……」



 目が覚めると、見慣れた馬車の天井が視界に入ってきた。

 窓や御車席から見える外の光景が動いていないことから、現在、この馬車は移動していないのだろう。

 そして今の私は馬車内で寝かされていたようで、毛布がかけられていた。



(眠い……)



 心地の良い睡魔にあっさり負けた私は、このまま二度寝という誘惑に──



「あ! クレア大丈夫っ? どっか痛いところはある?」



 私が起きたことに気が付いたのだろう。

 私の顔を心配そうにのぞき込んでくるのは、まだ幼さの残る顔──ウルだった。

 その隣には、ほっと胸撫でおろす様子のダミアンの姿もあった。



「……ウル、か」



 甘美な二度寝を邪魔されたことで多少の不機嫌は残れども。

 さすがに彼女に八つ当たりをするほど大人気ないわけじゃないので、私は小さく欠伸をしながら上半身だけを起こした。



「おはようございます、クレア様」

「ん、すまない」



 湯気が立つカップを手渡して来るアテナに礼を述べてから、紅茶を軽く喉に流し込む。

 熱すぎず、ぬる過ぎず、私にとってはまさに適温。

 相変わらずアテナの温度調整は完璧であり、私のことをきちんと理解してくれているのだろう。

 本当に、優秀なメイドである。



「ふう……それで、状況はどうなったんだ?」



 アテナに問う前に、ちらりとウルを見たのは、彼女がまだこの場にいることを不思議に思ったからだ。

 勇者レオとの戦いで敗北した以上、てっきり彼女はレアン共々連れて行かれたと思ったのだが……


 私の視線を受けて頭の上に?マークを浮かべるウルを横目に、淡々とした様子でアテナが答えてきた。



「結論から申しますと、私たちは見逃されました」



 意識を失っていた間のことを聞かされた私は、苦い感情を隠せない。



「まいったな……敵に回したくないタイプだ」



 ただの”悪”と断定できればいろいろとやりやすいだろうが……

 勇者レオは”悪”ではなく、村のために心を殺して苦渋の決断をしているようだからだ。

 他者のために心を砕く者を、私は嫌いではないのである。



「……ふう……」



 事態が思いのほか想定外の連続に、私は大きく嘆息する。



「これは、本当にまいったな。レオという人物についてもだが、それ以前に、前提だったレアン奪還から失敗するとは」

「ですね。まさか、クレア様が無様に意識を失うとは思っていませんでした」

「……落ち込んでいる時に、さらっとディスるのは勘弁してくれ」

「おや。落ち込んでおられたので?」

「自分の認識の甘さに、嫌気が差していたところだ」

「クレアナード様が悪いわけじゃないです! 勇者レオが、こちらの予想以上な相手だっただけです!」

「私を慰めてくれるのか、ダミアン。ありがとう……だが、相手は勇者なんだ。勇者だったんだ。その事実を軽視しすぎたのは……私の判断ミスだ」



 そう。

 私のミスなのだ。

 最初から殺す気で挑むべきだったのだ。

 最初からそのように動いていれば、きっと結果は違っていたことだろう。


 しかし……”悪”でないことが判明した彼を殺すのは、もう躊躇われてしまうのは仕方ないだろう。



「……ウル、すまない。本来ならば、いまお前の傍には姉がいただろう」

「クレア……」



 狼少女の瞳が揺れているのは、姉を想ってのことか、あるいは私を想ってくれてのことか。

 なにやら悲壮な覚悟をしたウルは、拳を握りしめてきた。



「これ以上、クレアたちに”迷惑”はかけられない。だから……ここでお別れしようと思う」

「……勘違いしないでくれ、ウル」

「ふえ……?」

「もはや乗りかかった船なんだ。ここで退きさがったら、私は何の為にボコボコにされたのかという話だ」

「クレア様の被虐趣味では?」

「アテナ。いま真面目な話の最中だぞ」

「これは失言を」



 飄々とした態度のアテナを軽く睨んで黙らせてから、私は改めて肩身が狭そうなウルを見つめる。



「お前たち姉妹が不幸になることがわかっている以上、それを知ってしまったからには、私にはこのまま引き下がる選択肢なんてないんだ」

「でも、クレア……」

「ウルさん、クレアナード様はこういう御方なんです。だから、俺たちを信じてくれませんか?」

「ダミアンくん……」

「ウルさん、貴女はとても運が良いということを自覚するべきです。お人好しのクレア様と知り合いになれたのですから。なので、もっと存分に、クレア様に迷惑をかけていいのですよ」

「アテナさん……」



 覚悟を決めていたウルは、私たちの言葉を受けて涙を浮かべるや、ストンっと座り込んだ。



「……でも、さ。これからどうするの?」

「さしあたっての問題は……レオたちがレアンに対する扱いだな」



 上目遣いで見上げてくるウルに、私は逆に問いかける。



「お前の村──狼族の村は、どう動くと思う?」

「んー……一応は正式な婚礼だから、身なりを整えてちゃんとした正装にされると思う。だからきっと、一度村に戻って、準備とかすると思うよ。それに……あのお姉ちゃんが黙って言う事聞くとは思えないから、なんか薬とか使われて意思を奪われると思う」

「……なるほど。つまりは、まだ私たちにはそれなりの時間があるっていうことか」



 こうなってくると後は、レアンが私たちを信じて、どこまで時間を稼いでくれるか、ということになってくるだろう。

 仮にも王弟の花嫁候補に対して、レオ達が手荒な真似をすることは考えづらく。

 皮肉ともいえるが、レアンの身の安全だけは保障されているとも言えるだろう。


 ただし、懸念材料がひとつだけあった。



「ウル、その薬とやらは、一度使われるともう二度と意思は戻らないといった類のものなのか?」

「んーん、違うよ。狼族の中にもさ、犯罪とか犯すヒトっているんだよね。そういうヒトたちをおとなしくさせるための薬なんだよ。んで、反省させた後、ちゃんと元に戻せる解毒薬っぽいのもあるよ」

「”っぽい”っていうのが、なんだか不安材料なんだが」

「あたしさ、そういう現場を直接見たことなくて。ヒトづてだから、表現も曖昧になっちゃうんだ」

「なるほどな。じゃあ、仮にレアンにその薬が投与されたとしても、元に戻す手段はあるっていうことだな?」

「……うん。あるっていえばあるけど、ただその場合だと、素直に解毒薬を渡してくれるかどうかは、わかんない」

「確かに、な」



 そんなつもりはないのだが、村にとっては私は敵だろう。

 そんな私が解毒薬をくれと言っても、素直に応じるとは思えなかった。



「そうなると、レアンの意思を奪うことが無意味となる状況にしなければならない、ということか」

「では当初の予定通り、王弟を亡き者にするしかありませんね」

「そうだな。勇者レオが強いことがわかった以上、レアンの奪還は困難だろう。それこそ、あの勇者を殺さなくてはいけなくなってくる。さすがに、ああいう手合いは出来れば殺したくないからな」

「なるほど。クレア様は、ああいった胸板が厚い大男が好みのタイプでしたか」

「──っ!?──」



 アテナの呟きに過敏に反応を示したのは、なぜかダミアンだった。

 しかし彼は言葉で表現することはしないで、そわそわとしながら私をちらちら見てくるのみ。


 彼の反応の意味がわからなかった私は、とりあえずスルーして、アテネへ向けて嘆息する。



「アテナよ、どうしてそういう話になるんだ?」

「あ、あのさ、クレア。その、言いづらいんだけどさ、レオさんとミゲルって、その、()()()なんだよね。だから、その……」

「いやいやいや。ウル、お前も変に勘違いしないでくれ。アテナのいつもの悪ふざけなんだからな」



 真に受けてしまったのか、申し訳なさそうにしてくる狼少女に説明してから、こほんと咳払い。



「とにかくだ。レアン奪還が困難の以上、難易度を下げるほかないということだ」



 勇者レオよりも愚弟バモンズのほうが御しやすいというのであれば、私がとるべき選択肢は一択である。

 あとは、レアンの頑張り(時間稼ぎ)次第、ということだろう。



「ウル。バモンズがいる街はどこなんだ?」

「えーっとね、確か……他民族都市の……て、て……テンゼ? だったかな」

「そうか。じゃあこれから、そのテンゼに向かおう。ウル、私たちは獣人国の地理には疎い。だから案内を頼む」

「うん!」



 こうして私たちはウルの村ではなく、元凶たる王の愚弟バモンズがいる、他民族都市テンゼへと向かうことに。




 ※ ※ ※




 街道を進む道中で野良魔獣と遭遇するものの、これといって何事もなく。

 いまは、休憩を兼ねて街道脇に馬車を停め、ウルがどこまで成長したのかを確認していた。

 本当は彼女と再会した時にしておきたかったのだが、あの時は急を要したこともある上に、レオ戦においては正確に把握する余裕もなかったからだ。



「ってりゃあああああああああああ!」

「く……っ」



 ウルの突進しざまの一撃を蒼刃で受け止めた私は、顔をしかめる。

 思っていた以上に、威力が増しているからである。

 身を反転して斬り上げた斬撃は、しかしウルがこちらの想定以上の動きでもって見切られており、逆に回転力が乗った蹴りが繰り出されてきていた。



「っ……」



 咄嗟に身を捻ったが、私の肩先に炸裂する。

 直撃を避けられただけでも、僥倖と思うしかないだろう。



(ウルの攻撃方法が、ここまで変わっているとはな……っ)



 攻撃方法荒々しくなっているのは、レアンの指導法のたまものなのだろう。


 態勢を崩してしまう私だが──



「まだ甘い!」



 私に一撃を食らわして着地直後のウルめがけて、地面に手をつきざまに足払い。



「ふえ……っ?」

 


 想定していなかったようで転倒したウルを容赦なく蹴り飛ばし、彼女は小さい悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。

 


「もっと柔軟に! あらゆる状況を想定して二手三手考えて動け!」

「ふしゅう…………!」


 

 飛び起きたウルが、身構えた。

 まるで猫が獲物を狙うような、はいつくばって尻尾をふりふりした動作で。

 そして気づけば、彼女の髪の色がわずかに変わっており、瞳孔が見る見る細まっていく──



(これは──)



 ウルの変化に、私が戸惑いを見せる中。



「ふしゃああああああああああああああ!」



 まるでバネが撥ねるように、勢いよくウルが飛び掛かってきた。

 いままの動きとは段違いの早さであり、私たちの距離はあっと言う間に詰まる。



「ち……っ」



 想定外の攻撃を前に、私は思わず()()で剣を振るってしまう。

 しかしウルは動物並みの動きで搔い潜るや、なんと、私の腕に噛みついていた。



(噛みつきだと……っ?)



 腕からの痛みに顔をしかめつつ、ウルの小さい身体へと膝蹴りを。

 どうやら噛みつきに集中していたようで、私の膝は深々と彼女の腹部にめり込んでいた。



「ふぎゅ……」



 唾液の糸を引いて、舌を出したままの状態で、意識を失ったウルがその場に崩れ落ちるのだった。


 その後、ウルは割とすぐに目を覚ましており、私は思いのほか疲れを感じながら、彼女を見やる。



「……まさか獣化をするとはな。驚いたぞ」

「ふえ? あたし、できてたの?」

 


 どうやら、無意識だったらしい。

 これもまた、レアンの教育の賜物なのかもしれない。

 以前の指導で、ウルの潜在能力をうまく成長させてやれなかった私は、軽くレアンに嫉妬してしまう。



(まあ、種族が違う上に、レアンは血の繋がった姉なのだしな。それに獣化についても、私よりも詳しいだろうさ)



 と言い訳を交えつつ、なけなしの矜持を維持する私。

 張り合っても意味がないというのはわかっているが……悔しいもののは、悔しいのである。



「もっとやろうよ! ねえいいでしょ!?」



 目を輝かせたウルが興奮気味で、ぴょんぴょん跳ねておねだりをしてくる。



「もっとやれば、いまのぼやーっとした感覚、つかめるかも!」

「おいおい、気持ちはわかるが……勘弁してくれ」



 ただでさえ体力がある獣人族に、弱体化して疲れやすくなっている私が、いつまでも相手を出来るはずもなく。

 決して歳のせいで疲れやすいわけではないと、そのことだけは念入りに指摘しておくとして。



「ダミアン、ちょっとウルの相手をしてやってくれ」

「え? 俺がですか?」

「ダミアンくんが相手してくれるの? いいよ! やろうよ!!」

「えっと……」



 困惑を見せる少年へと、すうっと移動したアテナが小さい声で耳打ちする。



「ダミアンさん、クレア様に雄姿を見せて差し上げては?」

「……わかりました」



 何を話したのか聞こえなかった私を一瞥してから、ダミアンがなぜかやる気を見せてきた。



「手加減はいらないんですよね?」

「うん! いらないよぉ!」



 ダミアンとウルは、たちまち肉迫戦を展開していく。


 一進一退とは言い難かったが、なかなか見ごたえのある戦闘を眺めつつ、私は独りごちていた。



「子供というのは、成長が早いな。驚かされてばかりだ」

「おやおや。まるで疲れ切った母親のような発言ですね」



 私の隣に移動していたアテナからの揶揄に、私は苦笑い。



「母親……か。母としての経験はないが、こんな感覚なのかもしれないな」

「では、母親となられては? 私とクレア様の子ならば、きっと元気な子が生まれることでしょう」

「いやいやいや。なにさらっと重大発言を……というか、女同士では無理だろうが」

「がんばれば、なんとか」

「いやいやいや。何を頑張るというんだ」

「クレア様……私の口から言わせたいのですか? セクハラ裁判を起こされたいようですね」

「……理不尽すぎる」




 ダミアンとウルが白熱する戦いを繰り広げ。


 通常運転のアテナを前に、私は溜め息ひとつだった。




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




「やっべぇ……空腹だと、こんなのでもうまく感じるぜ……」



 檻の中に囚われているレアンは、鉄の棒をペロペロと舐めていた。

 煽情的に映るのは、彼女が念入りに、そして丹念に舐めているからだろう。


 馬車と並走する馬に乗る男の狼獣人たちが、ごくりと唾を飲み、ちらちらとその様を盗み見ており。

 対照的に溜め息を吐いたレオが、馬車に馬を寄せてきた。



「堕ちるところまで堕ちたか レアン殿」

「……なんだよ。オレが何しようが別にいいだろ。腹が減ってるんだから仕方ねぇだろが」

「食事は提供している。手をつけないのは、貴殿の勝手だ」

「ふざけんなよ。意思を奪う薬が入ってる料理なんて食えるかよ」

「……人形となったほうが今後の苦しみが緩和されるだろうという配慮が、わからんか」

「ハッ! ほざいてろよ。オレはまだ諦めてねぇんだよ」



 犬歯をむき出して吐き捨てたレアンは、これ見よがしに鉄の棒を優しく握り、ペロリと舐める。



「村の英雄レオさんよぉ、我慢比べと行こうじゃねぇか。オレが元気なうちは、嫁に送ったところで、ぜってぇに噛みつくからな!」

「……食事を摂らねば、いつかは体力も尽きるだろう。抵抗力がなくなり次第、薬を投与して人形となってもらうぞ」

「力では負けたけどよ、心ではぜってぇに負けねぇ……! ()()()()アンタにはな!!」

「…………我等は座して、貴殿の消耗を待つだけだ」



 静かに告げてから、レオは馬車から距離を開けた。

 レオが離れたことでレアンは鉄の棒を舐めることに意識を戻し、狼獣人たちの好色な視線を集め。

 手綱を引きながら前方を見据えるレオは、しかしその視線には別のものが映っている様子だった。



(俺は間違っているのか……? これほど生にしがみつく若者(レアン)を死地に送ろうなどと……)



 嫁に送ったところで殺されるわけではないだろうが、明るい未来が待っているというわけでもないだろう。

 王弟のもとにいけば、生きているのに死んでいる、そんな地獄しかないことは自明の理ではあった。



「……俺は、村を守りたい。ただ、それだけなのだ……」

「レオ。私はいつでもいつまでも。どんな判断をしようとも、あなたの味方よ」



 すうっと姿を現した女精霊が、思い悩むレオの首元に両腕を回して来る。

 安堵感を感じたのか、レオはゆっくりと瞳を閉じてから、すぐに開いた。



「……ミゲル。あの女魔族は、追ってくると思うか?」

「え? どういうこと?」

「ウル殿とレアン殿。両方連れて行けば確実に追ってくるだろうからな。だから、ひとりは残した」

「ああ、そういうことだったのね。なんでふたりとも連れて行かないのか、不思議に思ってたわ」



 レアンを解放すれば、間違いなくウルを追ってくることが予測された。

 その逆も然り。

 そしてここで考えるは、解放した場合、どちらが厄介な存在となるか。

 それは考えるまでもなく、”獣化”を使いこなすレアンである。

 そういう判断のもと、見逃したのはウルだったというわけなのだ。


 しかしながら、想定外なことがひとつ。


 あの女魔族(クレアナード)の存在だ。

 戦いに勝利はしたが、決して油断は出来ないと本能が告げてくるのだ。

 だからこそ。

 片方(ウル)を残すことで諦めてくれれば……とレオは判断していたのである。



「レオ。そこまであなたが警戒する必要あるの?」

「……ああいう手合いが、一番敵に回したくないのだ、経験上な」



 ”強さ”とは、なにも純粋な戦闘力だけではないのだ。

 レオは、クレアナードに戦闘力だけでは推し量れない”強さ”を感じていた。

 勘違い、もしくは過大評価かもしれないが。

 少なくとも……”ただの冒険者”ではないだろう。



「現に。諦めていたレアン殿が、根競べなどと言って来たからな。これは……時間がかかるぞ」

「もうさ、無理矢理にでも薬を投与すればいいんじゃないの?」

「レアン殿のことだ。動けるうちは、暴れるだろう。花嫁を傷モノにはできん」

「……でもさ。どうせあっちに送ったら最後、傷モノになるのよね」

「それは……。いや、それでも。こちらにいる内は、せめて綺麗な状態でいてほしい……俺の我が儘だな」



 そう答えたレオは、苦笑いをする。

 クレアナードも、我が儘というセリフを言っていたのを思い出したからだ。



(我が儘と我が儘のぶつかり合い、というわけか)



 しかしながら、レオは理解していた。

 自分が負けることは許されないと。

 そうなってしまえば、故郷の村が無慈悲に蹂躪されてしまうからだ。


 王弟か獣王か。


 どちらにしても、狼族の村にとっては、滅亡と隣り合わせの状況なのである。

 それゆえに、レオは心を殺して決断したのだ。

 生贄を差し出すと。

 少数民族である自分たちでは、決して抗えないのだから。



(クレアナード殿……貴殿がどう動こうとも、俺は村を守るために、生贄の花嫁を全力で()()()



 ”守る”の意味合いが違うことに気付いた彼は、小さく苦い笑いを浮かべるのだった。

 


狼族の勇者には迷いがあるようでした。

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