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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第2章 『エルフ国編』
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第11話 「魔王様、世界樹を攻略する⑤」

前話のあらすじ:本隊と合流しました。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』




 人ならざる声で吼えた黒エルフへとドラギアが放った無数の火炎球が飛来するも、こちらも無数の伸ばした枝でもってその全てを受け止めており、本体へのダメージは皆無だった。


 とはいえ、陽動なので問題はなく。


 火炎球を防いだことで生じた隙で、私とダミアンは黒エルフへと接近。

 ダミアンの疾駆しざまの一撃が黒エルフの首を切り裂き、私の蒼の斬撃がその身体を薙ぎ裂く。




『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』




 再び吼えた黒エルフが私とダミアンへと猛攻をしかけてきた。

 回避する私とダミアンへと尚も追撃が叩き込まれてくるが、遅れて駆けつけたマリエムとレイが私たちの間に飛び込み、その盾でもって防いでくれる。


 アテナの影術による拘束は一瞬で破られてしまうも、一瞬は動きを止められるために、その一瞬を利用して私とダミアンは肉迫して攻撃・黒エルフからの反撃はマリエムとレイが防御・ドラギアが援護魔法を駆使し、私たちは黒エルフと攻防を展開していく。


 負傷した者はすぐに後退してビトレイに治療してもらい、再びすぐに戦線復帰。


 黒エルフはダメージに痛痒を見せないものの、無限の体力というわけではないようで、消耗を隠せない様子。

 魔法耐性が高いとはいえ、私たちが駆けつける前に行われた、白エルフ最強であるドラギアとの真っ向勝負により、さすがに疲弊しているようだった。


 ドラギア自身もが、その戦闘で負傷して消耗もしてしまったようだったが……



(それでもあのバケモノが疲弊していなければ、いまの私では手も足も出なかっただろうな)



 私だけではなく、他のメンツもこれまでの道中で疲弊しているのだ。

 そんな状態では、ロードクラス3体分の強さを誇る黒エルフには、太刀打ちできなかったことだろう。

 まあ、それはドラギアのただの目算なのだが。



「味方に当てるな! 一斉射撃開始!」



 白エルフたちは私たちの参戦を期に、全員が後退して武器を弓矢へと変えており、援護射撃を開始。

 さすがは弓術に長けた種族だけあり、狙いは正確のようで、黒エルフと接近戦をする私たちに誤射することはなく。

 雨あられの弓が降り注ぎ、その多くを無数の枝で防ぐものの、防ぎ損ねた何本もが黒エルフの身体に突き立っていく。



(──ん?)



 何の痛痒も見せない黒エルフだったが、頭部への攻撃だけは過敏すぎるほどに反応していたことに、私は気づく。

 無数の枝をすり抜けた一本が頭部へと向かったのだが、黒エルフが強引に首をひねって躱していたのだ。



「クレアさん! ボーっとしないで!」



 叫んだマリエムが私の眼前に飛び込み、私に叩き込まれてきていた枝を盾で防いでくる。



「すまない!」

「肝心な時に何やって──きゃうっ」



 横手から薙がれてた枝を防御し損なったマリエムが弾き飛ばされ、その枝はそのまま私へと。

 しかしその枝は、急迫した一条の火線が焼き払っていた。

 ドラギアの援護射撃である。

 視線だけで謝意してから、すぐに私も行動。

 ダミアンが黒エルフの首を再び狙っており、煩そうに枝で彼を振り払ったところへ、肉迫した私が蒼の切っ先を頭部めがけて繰り出す。




『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』



「っう……!」



 恐らくは、床に数多の根を張っていたのだろう。

 床から無数の枝が飛び出して来たのだ。

 これまでになかった攻撃に私の反応は遅れてしまい、どうにか身を捻って直撃は避けたものの、脇腹を深々と切られていた。


 これもまた、弱体化の影響である。


 この程度ならば、本来の私ならば避けられていた……。

 脇腹からの痛みと不甲斐なさに顔をしかめる私だが、遺憾ながらもすぐには動けない。

 その私へと、咆哮を轟かせた黒エルフが猛攻を叩き込んでくる。



「クレアナード様!」



 私に抱き着く形でダミアンが私をその場から逃してくれたおかげで、たった今まで私がいた空間を無数の枝が貫いていった。

 さらに追撃してくる黒エルフだが、今度はレイがフォローに入っており、私へと攻撃は届かない。



「お早く治療を!」

「すまない……っ」



 素直に後退する私。

 レイとマリエムの防御を軸にダミアンが、ドラギアの援護射撃のもと、前線で黒エルフと交戦。

 周囲の白エルフたちも射撃の雨を叩き込んでおり。




 しかし……黒エルフは倒れない。




 全身から伸ばす無数の枝ばかりではなく、今度は床からも無数の枝が飛び出し、攻撃方法が変わったことで、全員が苦戦を強いられることに。



「これじゃ近づけない……っ」



 ダミアンの機動力をもってしても、もはや近づくのは容易じゃなくなっていた。



「うわわ……っ」

「くう……!」



 予測が出来ない攻撃の前にマリエムが防御し損なって剣を弾き飛ばされ、同じくレイも防御し損なって腕や足に攻撃を受けてしまう。


 ビトレイに治療を受けながら、私はドラギアへと声を飛ばす。



「ドラギア! 貴女の極大魔法で、あいつを倒せないのかっ?」

「馬鹿を言うでない! こんな室内でそれを撃てば、儂らも巻き込まれて吹っ飛ぶぞ!」

「確かにそうか……」

「構わないのでは? 私は精神世界に戻れば影響ありませんし」

「アテナ、お前自分だけズルいぞ」

「ではクレア様、この状況の打開策をお願いします」

「むう……」



 淡々とした眼差しを向けられてきた私は、小さく唸る。

 そうしている間にも激戦は続いており、戦況は時間の経過と共にこちらが劣勢となり始めていた。



(確信はないが……可能性はある)



 先程の攻防において、黒エルフは頭部への攻撃に対して過敏に反応していた。

 もしかすると、頭部が弱点なのかもしれない。


 しかし……



(もはや近づくことも出来ないんじゃな)



 機動性に優れるダミアンすらが近づけないのでは、もう誰も黒エルフには近づけないだろう。

 火力を誇るドラギアの攻撃魔法にしても、効果が薄いのでは期待できない。



(どうする……どうすればいい……)



 ぎゅっと拳を握りしめる。

 弱体化していなければ……と思ってしまう。

 こんな状況など、かつての自分ならば誰の手を借りることもなく、ひとりで解決できていた。

 それなのに。

 いまでは……



「クレア様、ない物ねだりをしても仕方ないかと」

「っ……それは、わかっているさ」



 的確に私の心中をついてきたアテナに、私は思わず顔が引きつる。

 さすがに、付き合いが長いだけのことはあるといったところだろうか。



(いまの私に出来ないのならば、他の誰かをアテにするしかない……では、誰だ……?)



 真っ先に思い浮かぶのは、やはり白エルフ族最強であるドラギアだろう。

 しかしながら、現状では魔法の効果が薄いために、期待はできない。


 ならば、機動性に優れるダミアン?

 ……残念ながら、疲弊しているいまの彼には元来の機動性がないため、同じく期待薄。


 レイは……確かに実力は高いが、現状を打開できる程ではないだろう。


 ビトレイは回復職のために、元々除外である。

 私の治療を終えたことで、すぐに比較的安全圏である後方へと下がっていく。


 最後は……



(マリエム……か)



 近接職の彼女もそれなりに実力はあるが、比べるとレイのほうが何倍も上手だろう。しかもいまは剣をなくしたことで、盾で防御するのみだ。



(……いや、待てよ……)



 私は思い出す。

 彼女の、()()の職業を。



 地元でも有名な射手……



「マリエム!」



 私は、彼女の名を叫んでいた。




 ※ ※ ※




「えっ? なにどうしたのさっ?」



 マリエムは枝の攻撃を盾で弾いてから、急に私に呼ばれたことに不思議そうな顔をする。



「前線はレイとダミアンに任せて、こっちに来てくれ。作戦がある」

「え……っ」

「マリエムさん! ここは俺たちが!」

「クレアナード様の元へお早く!」

「う、うん……!」



 マリエムを援護するようにダミアンとレイが移動する。

 後退しようとする彼女を狙う黒エルフだったが、その身体に烈風の刃が炸裂。

 しかしダメージ自体は低く、やはり攻撃魔法の効果は薄いようである。



「儂も援護してやろう。効果が薄くとも、弾幕程度にはなるじゃろうて」



 ドラギアの周囲に無数の火炎球が生まれ、次々と黒エルフへと飛来していく。

 枝の群れが迎え撃ち、たちまち中空にて小爆発の連鎖が巻き起こる。


 ドラギアたちの援護の甲斐もあり、マリエムは無事に私のもとに。



「で、作戦ってなんなのさ?」

「君の弓で、あいつの弱点と思われる頭部を狙い撃ちしてくれ」

「え……っ」

「近づくことも出来ず、魔法の効果も薄い。となると、物理による遠距離攻撃しか、現状を打開する手はないんだ」

「いやいやいや。ちょっと待ってよ。他のひと(白エルフ)たちの射撃を見てるよね? もうぜんぜん届いてないじゃない。それなのに、いまさら私の弓なんてさ……」

「地元でも有名な射手だったんだろう?」

「それは……そうだけど」



 戸惑いと困惑を見せるマリエム。

 まあ、当然の反応と言えるだろうが、現状を打破できるのは彼女しかいないと、私は判断していた。



「弦と弓矢がないことから、それは魔弓だろう?」

「そうだけど……でも、攻撃力はそこらへんの弓矢と変わらないよ? 単に、弓矢を補充する手間が省けるってだけだし」

「攻撃力か……それなら、問題ない。私が補おう」

「え……?」

「マリエム。このままでは、私たちが全滅するのも時間の問題だろう。まだしも抵抗できるうちに、決着を付ける必要があるんだ」

「で、でも……」



 踏ん切りがつかない様子の彼女に、私は内心で卑怯だなと思いながらも、心を鬼にして後押しする。

 


「このままだと、ビトレイにも危険が及ぶ」


「──っ!!!!?」



 効果は抜群だったようで。

 マリエムの両目が見開かれた。



「そっか……そうだよね。ここで全滅したら、お兄ちゃんも……」



 私の卑怯なやり口にアテナが無言で見てくるも、いまは無視をする。

 自身の力がアテにならない以上、現状を打開するには手段なんて選んでいられないのだ。



「マリエム、兄を守るためにも、君の弓術を発揮してほしい」

「…………わかった。私……やる。やるよ」



 決意を込めた瞳で頷いた彼女は、盾を床に静かに置くと、背負っていた魔弓をゆっくりと装備する。

 そして感触を確かめるように握りしめた後、光の弦が出現。



「……すぅ……はぁー……」



 深く深呼吸した彼女が魔弓を構えると、光の弓矢が生まれた。

 声にこそ出さなかったが、私は感心の念を抱かされる。



(ほう……)



 弓を構える彼女の姿は実に堂に入っており、威風堂々としていたからだ。

 さすがは、本職といったところだろう。

 顔つきも変わり、視線も今までにないほどに鋭くなった彼女は、まさに”狩人”だった。



「マリエム、いまから私の力を一時的に付与する」



 光の弓矢にそっと手を触れると、その弓先が蒼雷を纏った。

 自分のただの剣に蒼雷を纏わせることができるのだから、他人の武器にも付与できない道理がないのである。


「え……これって……」

「プレッシャーを与えるわけじゃないが、チャンスは一度きりだろう。あいつにこちらの意図がバレれば、もう同じ手は通用しないだろうからな」

「う……うん、わかった」



 緊張を隠せないながらも、マリエムはすぐに歴戦の弓士を思わせる表情へ。

 頼もしい彼女の姿に満足気に笑んでから、私は前線へと足を向けた。



「おや? クレア様、再び前線に行かれるので?」

「ああ。あいつの注意を、少しでも散漫にする必要があるからな」

「そうですか。お気をつけて」

「援護は頼むぞ。いまの私は、援護がないと割とあっさりと倒されるからな」

「確かに。いまのクレア様は、簡単に気絶してしまいますからね」

「……まだロード戦のことを言うか。しつこいぞ?」

「おやおや。ご自分の情けない失態を早く忘れたい気持ちは理解できますが、現実から目を背けるのは頂けないかと?」

「……とにかく。援護は任せた」

「お任せを」



 こうして私は、再び前線へと──




 ※ ※ ※




 黒エルフの全身にて火炎球が連続で爆裂するも、大したダメージを与えられず。




『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』




 反撃とばかりにその全身と床から無数の枝を伸ばし、ダミアンとレイの接近を許さず、尚且つドラギアや周囲の白エルフへと猛威を振るう。


 何人かの白エルフが直撃して戦線離脱。


 さらには──



「む……っ」



 伸びてきた枝を魔力を帯びた手で弾いたドラギアだったが、床から飛び出してきた枝には反応が遅れてしまう。最強白エルフの彼女とはいえ、消耗を隠せなくなってきたいたのだ。



 幼女の身体へと鋭い先端の枝が吸い込まれていくも──



 蒼の軌跡が迸り、枝を切り飛ばしていた。

 間一髪で難を逃れたドラギアが、私へと皮肉げな笑みを見せてくる。



「まさか、お前さんに助けられるとはの」

「動きが鈍くなってきているな。貴女とはいえ、寄る年波には勝てないか?」

「カッカッカ! まだ憎まれ口を叩く余裕があるか」



 私たちへと襲い来る枝に火炎球を叩き込み爆砕したドラギアが、改めて私を見てきた。



「守備は整ったのじゃろうな?」

「ああ。あとは、あのバケモノの注意を散漫にするだけだ」



 答えた私は、床から飛び出してきた枝を蒼の一撃で返り討ちにする。

 


「なるほどの。では──盛大に陽動と行こうかの!」



 ドラギアが両手を広げるや、その周囲に無数の業火球が生まれ、一斉に黒エルフへと飛んでいく。

 それと同時に私も駆け出しており、攻めあぐねているダミアンとレイと合流。



「ふたりとも! とにかく、あいつの注意を逸らすぞ!」

「「了解しました!」」



 いちいち理由を聞くこともなく、ふたりは即答してくる。

 さすがに戦闘経験が豊富ということで、状況判断が早いのだ。



 中空にて枝と業炎球が衝突し、盛大な爆裂の火花が飛び散る。



 それを合図に、私たち近接組みが同時に仕掛けた。

 しかし、相変わらず近づけない。

 黒エルフの全身と床から伸びてくる無数の枝が、私たちの進撃を妨害してくるのだ。



「くそ……キリがない!」



 突き込まれてきた枝を真っ向から両断した私は、忌々し気に吐き捨てる。


 次から次へと襲いくる枝の群れをいくら斬っても、その枝自体は根元から枯れて床に落ちるものの、すぐに別の枝が伸びてくるために、もはや無尽蔵といってもよく。

 いつしか床は切り落ちた枝の絨毯と化しており、足場が悪くなっていくことで、劣勢の私たちの動きは制限されてしまい、さらに状況が悪くなっていくという悪循環に。



「! しま──っ」



 踏んだ足場が悪かったのか、ダミアンが足をとられてしまい、そこを狙ったように伸びてきた枝が彼の足に絡みつき、彼の身体が中空へと放り投げられる。

 足をまだ捕まれ、身体が宙にあるダミアンは身動きが取れない様子で、その彼へと別の枝が突き込まれるが──


 ザシュ!


 私が踏み込みざまに繰り出していた蒼の斬撃が、その枝を両断していた。

 さらには、飛来した火炎槍がダミアンの足を掴んでいた枝を焼き切っていく。


 それらの行動はほとんど同時であり、私はムッとしたようにドラギアへと目を向けた。



「おい、ドラギア……」

「カッカッカ! 見せ場を奪ってしまってすまぬのう」



 いつも助けられているので、たまにはダミアンを助ける側に回りたかったのだが……



「えっと……」



 床に着地したダミアンは、どう反応したらいいのかと困惑状態。

 そんな私たちへと襲い来る枝の群れを、影術によって妨害したアテナが呆れたように言ってくる。



「何を遊んでおられるのですか。この非常事態に」

「そうですよ! 誰が誰を助けようが今は関係ないかと!」



 影で拘束されている枝を切り裂くレイもが、アテナに同感らしかった。

 私に好意的なレイとはいえ、状況を見誤るほどの素人ではないのだ。


 ……まあ確かに、彼女たちの言動は正しいだろう。

 ぐうの音も出ないとは、まさにこの事だろうか。



「反省会は、後だな」

「カッカッカ。反省するのはお前さんだけじゃがの!」



 私たちは黒エルフの注意を少しでも逸らすべく、決死の攻防を展開する──

 



 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




(大丈夫、私ならやれる……)




 蒼雷纏う弓を構えたマリエムは、緊張感を漲らせながら自分に言い聞かせていた。


 みんながチャンスを作るために奮戦しているのだ。

 だからこそ、絶対に失敗は許されないのである。



(大丈夫……大丈夫だから……っ)



 必死に言い聞かせるものの、無駄に力んでしまうのは仕方がないだろう。

 この戦いの趨勢が、自分の一撃にかかっているのだ。

 まだまだ経験値が低い彼女にとっては、とんでもないプレッシャーだった。



(もし外したら……)



 チャンスは一度きりだと言われた以上、どうしても二の足を踏んでしまう。

 怖くて……矢を放てなかった。

 これまでの攻防で放つタイミングは何度かあったのだが、マリエムは撃てなかったのだ。



(どうしよう……このままじゃ……っ)



 時間の経過と共に、味方の戦況は悪くなっていく一方。

 このまま何もしなければ、全滅するのも時間の問題だろう。



(どうしよう……っ)



 思わず両目をぎゅっと握る──




「マリエム」




 声にハッとして両目を開くと、すぐ横に兄──ビトレイが来ていた。



「お前の弓の腕前は、僕が一番、知ってるよ。そんなお前が……前衛職に変えた理由も」

「──っ」

「でもやっぱり僕は、お前が弓を使っている姿のほうが、ずっと輝いているように思うんだ。そして弓を使うお前なら、誰にも負けない。絶対に標的を外さない。僕は、そう確信している」

「お兄ちゃん……」

「”鷹の目”のふたつ名、また僕に見せてくれないかな?」



 兄が、いつにない優しい声音で言ってくる。



()()()()()()僕は、ずっとお前の傍にいるから」

「お兄ちゃん……」



 外す=死ぬということは、もはや言うまでもなく。


 最愛の人(守りたい兄)に言外に死ぬときは一緒だと言われたことで、マリエムは肩の荷が降りる気持ちだった。

 すると不思議なことに、今まで感じていた緊張感が薄れ、全身から無駄な力が抜けていく。

 慣れ親しんだ、いつもの百発百中の”あの感覚”が戻ってくる……


 焦燥感に苛まれていたマリエムは、いつもの勝ち気な笑みを見せるほどに、余裕を取り戻していた。



「馬鹿言わないでよ。私が弓を()()()()()()じゃないの。いままでだって、一度も狙ったものを外したことないんだからね!」

「そうだね。お前の弓の腕前は、誰よりも一番、僕が知ってる」

「……見てて、お兄ちゃん。あのバケモノの頭、いまから貫くから」



 かつてないほどに神経を集中させ、マリエムは”一瞬の隙”を狙う。



 その瞬間は、意外と早く訪れることになる。

 仲間たちの決死の奮闘の賜物だろう。


 もうその絶好のタイミングを見逃すマリエムではなく。


 カッと両目を見開らくや──




「いっけえええええええええええええええええーーーーー!!!!」




 全身全霊を込めた、渾身の矢が放たれていた。



見逃した回数は3回です。

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