第6話 「魔王様、エルフ兄妹を鍛える」
前話のあらすじ:緊急依頼を受けました。
「君たちは…えーっと、確か……」
顔は覚えていたのだが名前が思い出せない私を前に、苦笑しつつの青年エルフが名乗ってきた。
「僕がビトレイ。こっちが妹のマリエムです」
「名前を覚えてないとか、ちょっとヒドくない?」
「マリエム!」
「だって……」
妹を窘める兄。そのやり取りで、私は完全に彼ら兄妹のことを思い出す。
そして違和感ひとつ。
以前のマリエムは、背中に弓を背負っていなかったはずである。
しかしいま、彼女は使い古されている弓を所持していた。
弓矢も弦もないことから、魔弓らしい。
とはいえ、彼女は剣と盾も装着しているので、こちらがメインなのだろうが。
(エルフだし、弓を持っていても別に不思議じゃないがな)
そう判断した私は、これといって指摘はせず、素直に謝罪。
「すまないな。どうも、ひとの名前を覚えるのが苦手なんだ」
「クレア様は、そのお歳から記憶力が乏しいのです。察してくだされば幸いです」
「おいおい……私はいつからそんな高齢になったんだ?」
「お、俺はクレアナード様がおいくつになられたとしても、きっといつまでも綺麗なままだと思います!」
「う、うむ……褒めてくれて、ありがとう」
私たちもいつも通りのやり取りをすると、マリエムが小首をかしげてきた。
「なんか新顔がいるね?」
「ん? ああ、ダミアンのことか。そういえば、君たちと会ったときは、まだいなかったっけな」
私はすぐにダミアンの耳元で囁く。
「私が元魔王だということは秘密にしておいてくれ。面倒だからな」
「わかりました」
「おやおや、私抜きで猥談とは、仲が宜しいようで」
「アホか! こんな場所でするわけないだろうが」
ダミアンの頬が薄っすら赤いのは、アテナが揶揄してきたからだろう。私が耳元で囁いた程度で狼狽える様な精神では、ないはずである。……たぶん。
「ちょ、痛いってば……っ」
「アハハ。相変わらず、仲がいいみたいだね、クレアナードさんたちって」
私に見惚れていた兄の腕をつねりながら、マリエムが笑いかけてくる。
私はそんな兄妹へと、ふとした疑問をぶつけた。
「君たちはそもそも、なぜこの場にいるんだ?」
「この場にいるクレアナードさんと同じ理由だと思います」
妹からつねられた腕をさすりながら、ビトレイが改めて私を見てきた。
「元々あの時は、負傷した父たちの代わりで警邏していたんですけど、父たちが回復したので、僕たちはお役御免となったんです」
「なるほどな。どうりで、指揮や戦闘に不慣れだったわけだ」
「……お恥ずかしいところを見せてしまったようで」
「でも、クレアナードさんのおかげで助かったんだしね。改めてお礼を言うわ、ありがとね」
面目ないとばかりな兄と、素直に頭を下げてくる妹。
「なに、大したことはしていないさ。で、私と同じ理由というのは?」
「あ、ちょっと語弊があったかもしれないです。お役御免となった僕たちは、今回の世界樹の騒動を黙って見ていることはできなかったんです。だから、いちエルフとして、この作戦に参加しようと思いまして」
「ほう? 殊勝な心掛けじゃないか」
「そんな大層なもんじゃないと思うわよ? たぶん、白エルフなら手の空いてる者はほとんどがこの作戦に参加すると思うし」
「そうなのか? ……確かに、白エルフが多い気がするな」
ちらほらと有翼人や龍人の姿もあったが、割合的には、やはり白エルフが圧倒的に多かった。
面識のない人族の冒険者も姿が見受けられたが、やはり魔族である私に敵意の眼差しを向けてくる……まあ、無視しているが。
「僕たちにとっては、世界樹ガイアは、それだけ重要な意味を持っているんです」
「なるほどな」
「ま、だからこーして、私とお兄ちゃんも来たってわけ! 私たちの村から一番近かったのが、このウェストだったってだけだよ」
マリエムに言われて、私は思い出してみる
彼女たちと会った街道が、世界樹を中心とするならば、だいたい西側に位置していたことを。
「でも、こうして再会できてとっても嬉しいです。運命なんじゃないかなって思うくら──いいいいっ?」
「お兄ちゃんったらもう! 鼻を伸ばしてみっともない! ああーーもう! みっともない!!」
「ちょ、マリエム? 再会を喜んだだけじゃ──いったたたったーーー!」
とたんに不機嫌になった妹に腕をつねられるビトレイは、私に近づくことを強制的に中断させられる。
思わずぽかんとしてしまう私の傍らではダミアンが、何やらビトレイに共感するものがあるのか妹につねられる彼を同情の目で見ており、いつものポーカーフェイスのアテナは顎に手を当てていた。
「なるほど。ひとつの愛情表現で”つねる”という方法もあったのですか。俗にいうツンデレというやつですか……クレア様。少しだけ、試してみてもよろしいですか?」
「……お前にデレ要素は期待できないんだがな?」
「ハハハ。私はいつもクレア様にデレているではありませんか」
「乾いた声で笑う時点で、お前も自覚しているんだろうな?」
等々、いつも通りのやり取りを交わしていると、その場にこの場の総責任者であろう壮年の白エルフが数人の仲間を連れて現れたことで、私たち含むその場にいた者たちが、一応に彼を注視する。
そして、作戦が伝えられた。
依頼書に書かれていたものと、それほど変わりはなく。
要は、本隊である南のサウスの援護として、他の村の部隊が陽動をしかけるといった内容である。
最終的には最深部の”核”の間にて合流する予定らしいが、暴走状態で内部構造が変化しており、事前に作成されていた地図がほとんど役に立たないらしく、この作戦は長期になる可能性もあると、最後に述べていた。
作戦を聞き終えた各々が、道具袋に意識を向けて、事前に街で仕入れていた食料等を確認する。
依頼書にも長期となる可能性ありと記されていたので、食料等を事前に用意しておくのは、わざわざいわれなくても、もはや常識である。
……そのはずなのだが。
「え? なんでみんな、食料を持ってきてるの? え? え? お兄ちゃん、どうしよう……?」
「ぼ、僕に聞かれても……そんなこと、一言も書かれてなかったし……」
どうやらこの兄妹は、何の用意もしていなかったらしい。
他の者たちが安心の表情を浮かべる中で、兄妹はあたふたするばかり。
さすがに可哀想と思ってしまった私は、仕方なく助け船を出してやることに。
「ビトレイ、マリエム。私たちとパーティを組むか?」
「え? いいんですか!?」
「嬉しいけど……そうなると、クレアナードさんたちの食料が減っちゃうんじゃないの?」
「なに。幸い、食料には事欠かない状態だからな」
そう言って見せたのは、A級品の道具袋。
最高ランクの道具袋であるだけに、他の下位道具袋にはない”質量保存”の魔法がかかっているために、中に入れている食材が痛むことは皆無なのである。
それゆえに、私の道具袋にはかなり多い食材が蓄積されていたのだ。
……欲張りということなかれ。食料は多く持っていたとしても、困ることはないということだ。
「これってA級品じゃないの! なんでこんな超高級な道具袋を持ってるのよ……っ」
「マリエルっ、声が大きいって」
「で、でもっ」
驚くのも無理らしからぬ兄妹の反応に、耳ざとく聞いていた周囲の者たちが、少しだけざわつく。
「クレア様、失策でしたね」
「……そう言うな。さすがに、見捨てるわけにはいかないだろうが」
ダンジョンでは何が起こるかわからない。
常に生と死が隣り合わせであり、命を落とした冒険者の持ち物が他の冒険者に盗られることもまた、日常茶飯事なのである。
魔獣に殺されようが他の冒険者に殺されようが、ダンジョン内で起こったことはすべで冒険者の自己責任なので、ある意味では無法地帯とも呼べるわけなのだ。
「安心してください、クレアナード様。俺が全力でお守りするので」
「ああ、頼りにしているよ、ダミアン」
私の視線を受けて、密偵少年は嬉しそうにしながらも力強く頷く。
一方では、兄妹が私に頭を下げてきていた。
「ありがとねクレアナードさん! 絶対役に立って見せるから!」
「ありがとうございます。今回の騒動が解決した暁には、僕たちの村に招待しますので、村で今回のお礼をということで」
こうして私のパーティに、まだいろんな意味で未熟な、兄妹エルフが加わることになるのだった。
※ ※ ※
作戦決行は明朝日の出と共にということらしく、集まった者たちは各々が簡易テントを立てたりして、夜営の準備を始めていた。
今夜だけはウェスト村からも食料が提供されるらしく、村の者たちが忙しなく動き回っている。
半壊した村の再建で忙しいだろうに……それだけ、世界樹が重要だと言うことなのだろう。
キイン!
私の馬車の付近にて、金属音が上がる。
「くう……っ」
「どうした! 戦闘中、敵は待ってはくれないぞ!」
「い──言われなくたって!」
私とマリエムは模擬試合をしており、ビトレイがハラハラした面持ちで観戦していた。
ダミアンは周囲に警戒を飛ばしており、アテナは簡易キッチンにて夕食を作っている最中。
「このおおおおおおお!」
「大振りすぎる! もっと脇を閉めろ!」
「ていやーーーー!!」
「踏み込みが甘い!」
「こなくそおおーーーー!」
「気合いだけが空回りしている!」
等々。
私とマリエムは近接戦闘を展開。
マリエムの戦法は、せっかくの魔弓を使うことなく、剣と盾による攻防一体がメインらしく、一見すると隙がなかった。
事実、彼女はけっこう強い部類に入ることだろう。
だが、あまりにも経験値がなさ過ぎた。
私のフェイントに、まるで対応できていなかったのだ。
「あーーー! なんでそこでそうくるのかな!?」
「目に頼り過ぎだ!」
なまじ目が良すぎるだけに、目だけで相手の動きを追う癖があり、身体がついていっていない感じだった。
いうなれば、自分の良すぎる胴体視力に身体が翻弄されている、といったところだろうか。
私に足払いされて尻もちついたマリエムが、非難の目を私に突き刺してきた。
「目で見ないでどうするのさ!?」
「見るなとは言っていない。ただ、素直に見過ぎているという話だ。相手はフェイントだって織り交ぜてくるだろう。しかも魔獣は生態がよくわかっていないことも多い。こちらの予想外の攻撃だってしてくることだろう。敵が右に動きそうだから右に動くとは、必ずしも限らないということだ」
「……むう。言ってることが正論だけに、反論できないんだけど」
「なぜ反論しようとする?」
「一方的に言われるのは、なんか腹立つから」
「若いな」
面白くなさそうにそっぽを向くマリエムに、私は微笑ましくなって小さく笑う。
若い内は、年長者からの説教などは、馬の耳に念仏だろう。
日常生活だけならば別にそれでも構わないのだが、生死をかけたダンジョンともなってくると、そうも言ってはいられないのが実情である。
(ウルはもっと素直だったんだがなぁ……)
どうやって諭そうとかと思っていると、ビトレイが助け船を出してきた。
「マリエム。その態度は良くない。こちらからクレアナードさんにお願いして稽古をつけてもらってるんだから、もっと真摯な態度にならないと」
「それは……わかってるけど」
「ごめんなさい、クレアナードさん。妹が我が儘な態度をとってばかりで……」
「なに、気にするな。若い内は、尖りたくなるもんだ」
「……えーっと。気になってたんですけど、クレアナードさんっておいくつなんですか?」
「……っ」
「ちょっとお兄ちゃん!? 私のことは非難しておいて、お兄ちゃんだって十分失礼なこと言ってるからね!」
「え……っ?」
「女性に年齢聞くとか、マジでありえないから! クレアさんにすっごい失礼! ってかセクハラ!!」
「セクハラ!? あまりにも綺麗だから、ちょっと気になっただけで……っ」
激高する妹の言葉にあたふたするビトレイは、右往左往する。
ダミアンは彼に通ずるものを感じているようで、うんうんと頷いており。
(いつの間にか呼び方が変わっているが……まあ、いいか)
この状況をどうやって収拾しようかと思っていると、ちょうどよく、アテナが料理を完成させたようである。
「出来ましたよー」
「なんていい匂い……」
「それに、すっごいおいしそう! じゅるりっ。涎が出ちゃうんだけど!」
「アテナの料理は、超一流だからな」
「俺も、もうハマってます」
空腹には誰も勝てない。
しかも、さも美味しそうな匂いを漂わせてくるのであっては、歴戦の戦士だろうが抗えないだろう。
周囲でそれぞれが夕食を摂っている者たちもが、その手を止めて、こちらを羨ましそうに見ているほどである。
ちょっとした優越感を感じてしまったことに、私は内心で軽く自嘲の笑み。
(こんなことで優越感を持つなんて、私もまだまだだな……)
だがそれほどまでに、アテナが作る料理はおいしそうだったのである。
※ ※ ※
馬車内で兄妹エルフと就寝中の最中、私はふいに目が覚めてしまった。
何か虫の報せが、とか仰々しい理由ではなく、単純に普通に目が覚めてしまったのだ。
「……ん?」
ふと気づくと、御者席に人影がった。
夜中はアテナも精神世界に帰っている為に、本当ならばその場は空席であるはずである。
柔らかい月明りの下、その正体が明らかとなる。
「ダミアン、起きていたのか?」
「──あ、クレアナード様。こんな時間にどうされたんですか?」
「いやいや、それはこちらのセリフなんだが」
寝ている兄妹を起こさないように小声で答えてから、私も御車席へと。
「どうしたんだ? 眠れないとかか?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
なぜかダミアンは、言葉を渋る。
「ん? じゃあ、なんなんだ?」
「……誰かが警戒していないと、いつ誰が襲ってくるかわからないので」
「……なるほど。それで、お前が寝ずの番をしていてくれたのか」
どこまでも健気な少年の態度に、私は思わず母性本能がくすぐられてしまう。
男勝りな面がある私として、ひとりの”女”なのである。
「それでは、お前が寝る時間がないだろう。私が代るから、お前は少し眠るといい」
「そんなこと……っ、クレアナード様を差し置いて寝るなんて、できません……っ」
「お前が寝不足で身体を壊しては、私が困ることになる」
「ですけど……」
「……ふむ、じゃあ、こうしようか」
私は、自分の膝をポンポンと叩く。
「私の膝を枕にするといい。そうすれば、何か不足の事態が起きても、すぐ反応できるだろう?」
「ええ……っ、そんな、恐れ多い……!」
「私の膝枕では、不満か?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……っ、むしろ俺なんかにはもったいないくらいです……!」
「そう自分を卑下するな。私はお前の働きを高く評価しているんだ、これくらいは、当然の報酬だと思ってくれ」
「クレアナード様……」
感極まるような表情になるダミアンに、私は微笑する。
「なに、そこまで畏まるな。年下相手に、いい恰好をしたいだけだ。だから気にすることはない」
「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えて」
おずおずと、私の膝に頭を預けてくる。
そして私が星空を少し眺めていると、すぐに寝息が聞こえてきた。
「眠かったのを我慢していたんだな」
クスっと笑い、彼の頭を優しく撫でてやる。
すると、母性本能に触発されてしまったのか、私は抗えないほどの猛烈な虚無感に襲われてしまう。
(家族……か)
当然ながら、私には子供なんておらず、血が繋がっているのは妹のラーミアただひとりだけである。
(妹を守るために、がむしゃらに生きてきたからな……)
ダンナに恵まれ、子供も授かった妹。
暖かな自分だけの家族を築く妹。
女としての幸せを享受する妹。
その妹を守るために、これまで”全て”を捨ててきた私……
(……やれやれ。妹に嫉妬するなど……情けないな。あの子を幸せにすることが、亡き両親に誓ったことだというのに)
その妹はいま私の手から離れ、私を必要としないでも幸せとなっている。
それならば、私はいったい……
(何を目的にして生きていけばいいのだろうか……)
姉として妹を守り。
魔王として国民を守り。
しかしいま、そのどちらもが私の手の中にはない。
(私は……)
このままアテもなく、ずっと放浪していくのか。
あるいは──
割と本気で悩む私を、星空の下、月明りが優しく照らし出していた。
翌日、アテナに『おやおや、昨晩はショタとお愉しみでしたか』と揶揄われることに……
※ ※ ※
※ ※ ※
「あー……もう!」
魔族国の自宅にいるラーミアは、苛立ちを隠せない様子で室内を行ったり来たりしていた。
そんな彼女の姿に、屋敷の主であるマイアスが苦笑い。
「そんなにイラついたって仕方ないじゃないか。少しは落ち着こう?」
「でも!」
言い募ろうとしたラーミアは、しかし夫に湯気が立つ紅茶を差し出されたことで、鼻息荒くひとつ溜め息を吐いてから、椅子へと腰かけた。
「ありがとうございます、あなた」
「どういたしまして」
優雅な仕草で紅茶を一口飲んでから、音を立てることなく静かにテーブルにカップを置く。
「でも。どうして連絡がこないんですの? ダミアンが出立してから、かなりの日数が経っていますわ」
「まあ、エルフ族国はここからだと遠いからね。義姉さんに合流するまでも時間はかかるだろうね」
「それはわかってますわ。でもあの子の移動速度を計算してみても、もうとっくにお姉さまに合流しているはずですの。だから近況報告のひとつくらい、そろそろ来てもいいと私は思いますわ」
「うーん……君の言っていることはわかるんだけどね……」
興奮を抑えきれない妻に、マイアスは少しだけ困ったような顔に。
「しばらくは義姉さんと同行するとも言ってたよね?」
「そうですわね」
「きっと、それが楽しくて報告を忘れてるんじゃないかな?」
「どうしてですのっ? 職務怠慢じゃないですの! 国境の街には密偵を常駐させているのですし、連絡のひとつくらい、すぐじゃありませんの!」
「まあ、そうなんだけどね」
でも、とマイアスは内心ではダミアンの気持ちを理解していたりする。
(片思いの相手と一緒にいたら、任務とか頭から吹っ飛ぶだろうしね)
もしそれを言ったら姉が最優先である妻が、連絡役を別の人間にさせると言いかねないので、同性としてダミアンに肩入れしているマイアスは、口には出さない。
ラーミアは普段思慮深いのだが、こと姉のことになると、冷静さを失う面があるのだ。
それだけ、強い絆の姉妹だったということなのだろうが。
「私、心配ですの……なんかエルフ族国で大きな地震があったようなので」
「確かに。なんだか世界樹に異変が起きたみたいだね。それ以上の詳しいことは、伏せられているようだけど」
「もうこうなったら、通信機を使ってお姉さまと連絡をとろうかしら」
「いやいや、それをやったら元も子もないだろう?」
ブレアにクレアナードの居場所がわからないようにするために密偵を使っているのだから、こちらの通信機を常に傍受しているであろうブレア陣営にバレてしまえば、彼女に対してどんな妨害行動を始めるかわかったものではないのである。
「ブレアは、いまだに義姉さんを敵視しているみたいだしね」
「あの男も、本当にしつこいですわよね」
「まあ、失脚して魔王城から追放されたとしても、こうして僕らが義姉さんの居場所を守ってるわけだしね。あいつにしてみたら、面白くはないだろうね」
「器が小さいのですわ。魔王は、もっとどんと構えていなくては。お姉さまみたいに」
「そういうふうに、ブレアと義姉さんを比べる者も少なくないからね。ブレアにとってみたら、早く始末したいと思っているはずだよ。だから僕たちが、下手に動くわけにはいかないんだ。わかるね?」
諭すような口調のマイアスに、ラーミアの興奮度合いは見る見る下がっていく。
「……ごめんなさい、あなた。私ったら、ついはしたない言動を……」
「それだけ義姉さんを想っているってことなんだから、恥じることはないよ。ただ、もう少しだけ冷静でいられたら、もっといいかもしれないね」
「あなた……」
自分のことをよく理解してくれている。やっぱりこの人を選んでよかったと、ラーミアは心の底から思うのだった。
姉と夫に恵まれているようです。




