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君の目は君に似てる

作者: 走馬灯

人のせいにする僕と未来を知る女の人との短い話


『君は私をいずれ知るし、私もいずれ君を知る』


その言葉が全てだった。

高3の夏休み、全員が未来を意識して日夜勉強する中、僕には夜中、山に行ってカブトムシを見る奇妙な習慣がついていた。

母がカブトムシは夜中飛んでうるさいからと言って飼うことを許さなかったので見るだけだ。

その行動は特に意味は持たなく後になってみたら『何をやっていたんだろう』なんて思う事だろうけど、現実逃避ぐらいにはなっていた。

高校というのは不な思議なもので、学校に入るや『部活頑張れ!』と言うのに、いざ3年生になると『勉強を頑張れ!』に刷り変わっていて、気がつくと手遅れになる。

それが僕だった。3年間部活しかやってこなくて、打ちひしがれて、勉強は手遅れなのは学校のせいにしていた。

田舎の山は昼間は子供たちで少しは賑やかなのに、夜になると街灯もなく真っ暗で静かで、少し怖い。

風で木がザワザワと揺れていて威嚇のように見えた。

お前は何をしているんだ、そう言ってるようにも見えた。

膝ぐらいまでの草の中歩いていって、カブトムシのいる木まで懐中電灯を持って歩く。

その夜は雲がなくて、変に月が明るい日だった。

歩いていると近くでガサガサと音がして、血の気が引いた。恐らく、僕は今真っ青な顔をしている。

自分が足を止めても、ガサガサと音は鳴って、だんだんと近づいてきている。

僕は懐中電灯を消して、息を潜めた。

すると音は鳴りやんで声がした。

『いないかなあ』

女の人の声だった。

僕は声がする方向に懐中電灯のスイッチを入れて向けた。

『わっ、まぶしいな。でも、いたね』

決して美人ではないが、顔が整っていて清潔感のある女の人だった。

僕はこの女の人を知らない。でも女の人はぼくを知っているように見えることが不思議だった。

『どなたですか?』

そう聞くと女の人は少し悩んだような素振りを見せて、『どうしようかな』と言ったあと

『なんでも知ってる、お姉さんだ』と言った。

怪しい人だと思った。僕も勉強をしないとこんな人になってしまうのかもしれないと思った。

『そうですか』と言って歩きだそうとすると

『待って、待って』と女の人が僕を引き止めた。

『君は今、未来について悩んでいるよね』

真っ直ぐな目をしてそう言った。女の人に眩しいと言われた時から懐中電灯は地面を照らしていたが、その真っ直ぐな目はハッキリと見えた。

ポカンとする僕を気にもしないで女の人は

『未来について、知りたくないかな?』

とさっきまでとは違う声色で言った。

『なんであなたが未来を知っているんですか、あなたは誰なんですか』

震えた声でそう言うと女の人は微笑んで

『君はいずれ私を知る、いずれ私も君を知る』

そう言った。

『もう帰ります』

とだけ言うと、

『身長173センチ、体重55kg、利き手は右、血液型O型、2月2日産まれ、私は君の未来を知ってる』


体重は違ったど、ほぼ正確な自分の情報を言われてハッとして振り返ると


『明日もまた来なよ。待ってる』

ニコッと笑った女の人の顔があった。


その晩、女の人の事を考えて眠れず、次の日は昼に起きた。

部屋でゴロゴロしながらまた女の人が何者なのか考えていたら母が乱暴に部屋に入ってきた。

『勉強もしないで、志望校も決まらないで、何をしているの、産まなければよかった』

そう怒鳴り散らし、後半の『産まなければよかった』を繰り返すと部屋から出て行った。

怒鳴り散らすしかしない母親やめんどくさそうな教師に比べたら幾分か、あの女の人の方信じられると思った。


また怒鳴られないように机に向かい、勉強をしているふりをしながらしばらく時間を潰したあと、また寝た。

起きるともう夜になっていて、お腹がすいていたけど、山に行った。

昨日と同じ道を通る。

昨日と違って、女の人はすでに前にいて、昨日のように物音で僕を怖がらせなかった。


『ああ、来たね、こんばんわ』短く挨拶すると女の人は

『未来について知りたくなった?』と聞いた。

僕は黙って頷くと女の人はニコッと笑って

『そっか』と言った。

笑顔はとても魅力的だった。

『未来は3通りあるよ。1つは大学に行かないでミュージシャンになって大成するけど、不倫報道をきっかけに台無しになる道。2つは勉強を頑張って今年名門大学に入るけど退学になって自殺する道。3つ目は浪人してそこそこの大学に受かって、将来的にこの市の市役所に務めて同じ職場の人と結婚する道だね』


『ほとんど悲惨なんですね』

少しショックを受けた様子が伝わったのか女の人は

『まあでも観測された世界線だけだからね。まだ別な道もあるかもしれないし』

そう励ますのだった。


『どの道も楽しい要素はあるだろうし、君は、どの道がいいかな?』


『3つ目ですかね』


そう言うと女の人は会ってから1番の笑顔を見せて

『そっか』と言ったあと

『君は君によく似た目をしていて、何かすごいことをする人に見えないから、きっといずれ私を知るよ』


そう言った。

『君はいずれ私を知るし、私もいずれ君を知る、ですか。』


『そうだね。それが一番正しいね』

真っ直ぐな目は初めてあった時のように僕を見ていた。

『それってつまり』そう言いかけると

『そろそろ、時間かな』と女の人が僕の言葉を塞いだ。

落ちてた木の枝でガリガリと地面に何かを書くと

『またね』そう言って走って夜の闇に消えていった。

女の人が書いたところを懐中電灯で照らすと


『市役所で待ってる』と書いてあった。

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