編首
鬼が、私を見つめている。
真冬の、凍てつく川の水のように。
冷たい視線が、殺気が、私に向けられる。
それは、まるで突きつけられた刀の刃先のように鋭くて。
実際に突きつけられた刀の刃先は、もっと鋭くて。
そうして私に太刀を向ける信長の冷めた視線は、白刃よりも、何倍も鋭くて。
その肌は、霜や雪のように白かった。
その顔立ちは、絵に描いたように整っていた。
目の前の男は、異質で、浮世離れしているように、私には感じる。
まるで、鬼か夜叉か、羅刹のようで。
そうでなければ、『天魔』・・・
一歩でも動けば、少しでも歯向かえば、即座に斬られる。
ひしひしと伝わる信長の殺気から、強くそう感じる。
けれど、私は不思議と臆しなかった。
怖い、と思いながらも、信長と睨み合うことをやめられなかった。
だって、私は・・・
その言葉を、息と共に飲み込む。
そして、私は、目の前の天魔の顔を見据えて
「脅しはききません」
負けじと、言ってやった。
「刀を抜かれても、怖くありません」
それが私と織田信長という『武士』との出逢いで、始まり。
だから、きっと言える。
私はいつまでも、この出逢いを忘れることはないのだろうと。




