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親子で解く事件

食堂から戻った小川親子は、心中ではなく他殺だと話すために事情聴取をしている部屋に入った。

二人に気付いた片倉刑事は、

「小川警視、心中だと結論がつきました。宿泊する三人には今日のところは帰ってもらう事にしました」

哲哉にそう説明した。

「片倉刑事、申し訳ないのですがこれは心中ではありません」

まず最初に哲哉は息子が事件の真相を話しやすいようにそう言ってくれた。

それを聞いた全員はえっという表情を見せた。

「心中やないって……どういうことですか?」

映利子は戸惑いながら哲哉に聞いた。

「率直に言うと他殺です」

哲哉は他殺だと言い切った。

そして、次にお前の番だと息子の顔を見る。父親の表情を読み取った篤史は、わかったというふうに頷いた。

「先に犯人を言います。川田さんと寺岡さんを心中に見せかけて殺害したのは、宇多川さん、あなたです」

篤史は直矢をしっかり見て言い放った。

犯人だと言われた直矢は、うろたえつつ自分は何もしていないというのが表情に出ていた。

「篤史君、なんで私が二人を殺害しなければいけないんや? 二人はここに来たのは初めてなんや。初対面やのに殺害する理由はないと思うけど……」

直矢は戸惑いながらも自分は殺害していないと否定する。

「失礼だと思いましたが、親父とかこの宿泊者名簿を見させていただきました。亡くなった二人はこのペンションの常連やという事がわかりました。あなたは二人を知っていて、初対面と言ったんやないですか? それに寺岡さんは昼食時に宇多川さんの料理が一番美味しいと言ってました。他であなたの料理を食べる機会はなかったやろうし、それを考えるとこのペンションに一度でも来た事があるんやろうなと推測しました」

篤史は初対面だと言う直矢に、それはおかしいと反論する。

「あぁ、そうでした。前回からだいぶ日にちが経っていたから忘れてたんだよ」

篤史の反論に、直矢は慌てて初対面ではなかったと言い直した。

その答え方を聞いた二人の管轄の刑事も被害者を殺害したのだろうな、と感じ取っていた。

「宿泊者名簿を見た限り、前回は三ヶ月前に訪れています。確かに前回から日にちが空いていますが、さすがにそんなすぐに常連客の顔を忘れるでしょうか? あなたは何らかの理由で被害者が不倫の密会に使われていることを知った。度々、訪れる二人に嫌気が刺してしまい、徐々にそんなことのために利用して欲しくない思いが出てきた」

篤史は不倫の密会に自分のペンションが使われるのが嫌な事は充分に理解した上で、事件を起こした概要を話した。

「じゃあ、篤史君、聞くが私は二人が亡くなった時間はキーホルダー作りを行っていたんや。二人を殺害したって言うなら、どう殺害したっていうんや?」

断じて自分は何もしていないと言い張る直矢。

「それは宇多川が作ったコーヒーや。お前はその中にあらかじめ用意していた青酸カリを入れたんや。青酸カリが入っていると知らない二人は、部屋でコーヒーを飲み亡くなった」

次に哲哉が殺害方法を話す。

哲哉のその話に馬鹿らしいという表情を受けべる直矢。

「何を言うてるんや。青酸カリはあの二人の持ち物から見つかったんやろ?」

「あれはダミーやと思うで。鑑識さんが調べたら中身は違う液体やとわかるはずやで。食器棚の奥から二人に入れた青酸カリ入りのビンが見つかった。それを調べたら、指紋などで宇多川さんが犯人やという証拠が出てくると思いますよ」

篤史は許可なく食堂にも入った事を前提で話す。

「何デタラメな事を言うてるんや!? そんなもので私があの二人を殺したっていう証拠にはならへんやろ!」

直矢は激昂して篤史と哲哉に叫ぶ。

その様子を見た全員は、往生際が悪いという目で直矢を見ている。

「調べれば青酸カリ入りのビンにお前の指紋が付いてると思うで。それになんで普段生活してる中で使わへん青酸カリを持ってるんや? 普通に考えてみればおかしいと思うで。」

哲哉は畳み掛けるように知人に問う。

「それは……」

知人であり警官でもある哲哉の問いに何も答えられないでいる直矢。

普通に生活していれば青酸カリを手にする機会はほぼ皆無なはずなのに、どうして直矢は青酸カリを持っているのか、食堂で見た時から疑問に思っていた哲哉。

「……篤史君の言うとおり、不倫の密会にこのペンションを使われたくなかったから、あの二人を殺害したんや」

直矢はこれ以上言い逃れが出来ないと思いながら、自分が殺害したと認めた。

「川田さんと寺岡さんが不倫してるといつわかったんですか?」

亜希奈は疑問を投げかける。

「いつも同じ日に宿泊していればわかりますよ。最初の二回は偶然やろうなと思ってた。しかし、三回目に用事で客室を来た時、偶然、寺岡さんの部屋を通るとドアが開いていて、行為をしている最中を見てしまったんです。それで知りました」

「でも、それだけでは不倫やとはわからないんやないですか?」

杏奈がそれだけでは不倫だとは言えないんじゃないかと聞く。

「言わなくてもわかりますよ。雰囲気でね。宿泊する名字も別やったし……。きっと疚しい関係なんやろうなとは思ってましたよ」

直矢はなんとなく気付いていたと話す。

答えを聞いた杏奈はそうなんや、と思う。

「不倫の密会に使われたくない一心で二人を殺害しようとしたんやな?」

「そうや。前回宿泊した時に次に機会に殺害しようと計画を立てていた。そして、小川をアリバイ証人にしようと考えたんや」

ペンションに誘った理由は、順一と今日子を殺害するためだと話した。

哲哉はこんなことのために呼ばれたと思うと悔しさが表情に滲み出ていた。

「不倫の密会のためにペンションを営んでたわけやないのにな。ここに来る全員が楽しく過ごせて笑顔になればいいのになと思って始めたペンションやのに……」

直矢は順調だったペンションの経営を自らの手で終わらせてしまう事を後悔しているようだ。

そして、二人の管轄の刑事と共に直矢はペンションを後にする事にした。

篤史達の胸には後味が悪い思いだけが残っていた。

事件を解決した篤史は、少しの間、過ごした直矢のペンションに来て良かったという思いがあった。

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