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篤史の心の隔たり

敬老の日、部活が休みの篤史は家族と幼馴染である服部留理と川口里奈の七人で、哲哉の知り合いが経営するペンションに浴びに行く事になった。

亜希奈から夏休みに家出をして、部活を休んでいたと聞かさせた二人の幼馴染は、何事かと心配してしまった。だが、二学期に入って、普段と変わりなく学校に来ている篤史を見て、その心配は多少薄らいだ。

午前八時半、早目に留理と里奈が篤史に家に来て、早速、哲哉が運転する車で向かう事にした。

「急にペンションに行くって誘ってゴメンな」

亜希奈は幼い時から知っている二人に急な誘いをした事を謝る。

「いえいえ……。学校が休みの日は部活がなくて暇してたから……」

里奈は幼馴染の幼馴染だという事もありフランクな口調で言う。

二人共、部活に入っていて、留理が吹奏楽部、里奈が美術部だ。

「お父さんの知り合いでペンションを経営してる人がいて、祝日やけどそんなに人がいなくて空いてるから遊びに来ないかって言われてん。せっかくやし留理ちゃんと里奈ちゃんも誘ったほうがいいんやないかって言って、篤史に伝えておいてもらったってわけやねん」

亜希奈は二人が来てくれた事が嬉しかったようだ。

というのも、夏休みに息子が家出をした事に相当ショックを受けていて、今回、哲哉の知り合いからお誘いを受けてペンションに行く事について、留理と里奈も来てくれたほうが息子も元気になるんじゃないか、と母親なりに考えたのだ。

「オレは余計な事はするなって言うたんやけどな」

話を聞いていた篤史は、七人乗りの真ん中の席で窓の外を眺めながらそっけなく言う。

「余計な事やないって。私は誘ってもらって嬉しかったで」

篤史の真後ろの後部座席に座っている留理は言う。

それは里奈も同じように思っていた。

「二人共、そう言ってるやん」

亜希奈は自分が誘った事は間違っていなかったというふうに言う。

「オカンの誘いやから断れへんかっただけや」

そっけなく言ってしまう篤史は、まだ家族と一緒にいるという事に抵抗を感じてしまう。

そもそも高校生にもなって、しかも、男子で家族で出掛けるなんて今時しない、と思ってしまう。

「そっけなくてゴメンな」

二人の幼馴染と一緒に後部座席に座っている姉の杏奈が謝る。

謝られた二人は気にしていないというふうだ。

「これから行くペンションは家族で何度か行ってるねんけど、留理ちゃんと里奈ちゃんは初めてやんな?」

亜希奈は息子の幼馴染に問う。

二人は初めて行く、と答える。

「オーナーさんはお父さんより年上やけどいい人やねんで」

次に杏奈が言う。

「そうやで。今日は日帰りやからそんなに長くはいられへんけど、二人共、楽しんでいってな」

亜希奈は後部座席を振り返りながら言う。

そして、哲哉が車を走らせて二時間、ペンションに着いた。

途中、休憩を挟んだのだが、比較的道が空いていたというのもあり、スムーズに来れた。

一行が中に入ると、哲哉の知り合いのペンションのオーナーが対応してくれた。

「オゥ! 小川、今日は来てくれてありがとうな」

オーナーの宇多川直矢が笑顔で言う。

「いいんや。久しぶりやな。五年ぶりかな」

哲哉も久しぶりに会う知人に笑顔になりながら言う。

「そうやな。今日は利用する客が少なくて、それで久しぶりに小川に会いたいなって思い立って連絡したんや。今日は小川家以外にも連れがいるんやな」

直矢は留理と里奈の存在に気付く。

「そうや。服部留理さんと川口里奈さんや。二人共、篤史の幼馴染や」

哲哉に紹介された二人は会釈をする。

「私は宇多川です。このペンションのオーナーをしてます」

直矢は優しそうな笑顔で自己紹介をする。

ジーンズに半袖のポロシャツ、その上には濃紺のエプロンをしている直矢は、今年五十歳だ。

このペンションは宿泊はもちろん日帰りでも利用出来るのだ。

底に一人の男性客が入ってくる。

「二泊で宿泊する山田です」

宿泊するのに来たその客は、金髪で全身黒い服で、カバーにかかったギターを背負っている。

直矢は男性客の対応をし、宿泊名簿を書いてもらうように願い出る。

その男性客が宿泊名簿を書いている最中に四人の宿泊すると思われる客が入ってくる。

その四人のか客にも対応する直矢。

部屋を案内する際に直矢は、あと一時間で昼食の時間だから食堂に来るように、と伝えると、それぞれの部屋に行った。

小川家と留理と里奈は空いている大部屋を借りて、昼食までゆっくりと過ごす事にした。篤史は家族と一緒にいる空間が嫌だという思いからかペンションの外に出て、少し散策する。

ペンションの周りは緑が多く、近くには海がある。交通量が少ないというのもあり、そんなに空気は汚れていない。

哲哉の祖父母の家でも思った事なのだが、こんなところで過ごせたら……、という思いが篤史の中で未だくすぶっていた。

二十分ほど散策してペンションの前に設置してあるベンチに座った篤史。

家族もいるためなんとなく中に入りたくない気持ちになったのだ。

そこに二人の幼馴染が来る。

「こんなところで何してるん?」

里奈が篤史の隣に座りながら聞いてくる。

「うん。ちょっとな……」

「夏休みに家出した事、考えてる?」

続けて、里奈が聞く。

そう聞かれた篤史は、まぁ、そんなところやな、と言葉少なに答える。

そっかと頷く里奈。

「色んな事を溜め込んで……。家出をしたのは篤史なりに悩んでの事やもんね」

留理は家出をした事について驚いていたが、それは篤史が悩み抜いての行動だったんだな、と実感していた。

「出来ればオレだって家出なんてしたくなかったけど、自分の主張をするにはこうするしかなかったんや。家には戻ってきたけど、まだ親父達とわかりあえてへん」

篤史は二学期に入ってからも自分と家族との心の隔たりがある、と思っていた。

「それはある程度仕方ないんやない? 外から見れば仲の良い家族やなって思ってても裏を知ればそんなことはないんやし……。篤史は篤史なりの反抗やったわけやし、そこはおじさんとおばさんにも伝わったと思うで」

篤史が取った行動は決して褒められたわけではないが、家出をした事で哲哉達にはわかってもらえたところもあるだろう、と里奈は言う。

幼馴染の視点から見て、両親に言いつけを聞きすぎているのではないか、という思いがあったのだ。

今まで両親に反抗的な態度を取った事がないからこそ、自分の言いたい事をどう表現したらいいのかわからないために起こした行動なんだろう、と二人の幼馴染は思っていた。

「これから先、色々あるやろうけど、今日は何も考えずにゆっくりしたらいいと思う」

留理はいくら悩んでも篤史がやった事は消えないんだから……、という思いで言った。

篤史もそうやな、と一言言う。

そこに知和が出てくる。

「兄ちゃん、昼食に時間やって」

「もうそんな時間なんか。食堂行こか」

そう言った後、篤史はため息をつくと立ち上がる。

食堂に入ると、五人のの宿泊客もいた。

昼食はローストチキンとサラダとパンとスープ、デザートにプリンだ。

食べる直前に直矢が直矢が何かの縁なので自己紹介をしようとする事になった。先に小川家達が自己紹介をする。

次に一番目に来たギターを持った男性が自己紹介をする。

「オレは山田清。名前はオッサンみたいやけど、年は二十九歳や。ミュージシャンをしながら、他のミュージシャンの音響とか裏方の仕事をしてるんや」

山田清はイカツイ表情をしているが、喋ると気さくな感じが漂っている。

「私は横田映利子です」

「大石ゆりです。私達、会社員です」

次は二十代前半の二人組の女性だ。

横田映利子は活発的な感じだが、大石ゆりは大人しそうな感じだ。

「寺村今日子。主婦です。旦那はサービス業で、一人で旅行に行ってきてもいいと言われたので来ました」

寺村今日子はショートヘアの三十代半ばの女性だ。

「オレは川田順一。一人でのんびりしたいと思って来ただけや」

川田順一はぶっきらぼうな感じで、みんなと関わり合いになりたくないようだ。

全員が自己紹介が終わると、早速昼食の時間となった。

直矢が作った昼食は、ペンションで食べる食事といった感じで、楽しい雰囲気だ。今の篤史にとっては家族以外と一緒に食べる食事は気が安らぐ時だ。

「このチキン、ローズマリーが利いてますね。宇多川さんが作った食事が一番美味しいわ」

今日子がチキンの味を堪能しながら直矢に言う。

「ありがとうございます。ローズマリーと一緒にローストしてます。プリンも手作りなんですよ」

料理を褒められた直矢は嬉しそうに微笑んで言う。

「プリンも手作りなんや。私、スーパーで売ってるプリンも好きやけど、手作りのプリンも好きなんです」

映利子は手作りのプリンと聞き、パァァァァ……と笑顔になる。

女性二人のお褒めの言葉をもらった直矢は、懸命に作った甲斐があった、と思う。

昼食を食べ終わるとそれぞれ過ごす事になった。篤史以外の小川家と留理と里奈、そして、映利子とゆりと清は、簡単に作れるキーホルダーを思い出作りとして作る事になった。篤史も一緒に作ろう、留理が誘ってくれたが、そんな気になれず、部屋で過ごす事にした。

そんな篤史にはさっきの昼食で気がかりな事があった。それは今日子と順一の事だった。

一見、知らない者同士という感じだったが、雰囲気からして知り合いなのでは、というのが醸し出されていた。もしかして、不倫なのではないのか、という思いが駆け巡り、それが隠しきれていない、と篤史は感じ取っていた。

そんなことを思う事自体がお節介なのだが、今までいくつかの事件を解いてきた自分の目が、二人が知り合いなのではないかという思う気持ちに拍車をかけていた。

ただの思い過ごしならいいのだが、もし、自分の思ったとおりなら、人を見る目が変わるな。自分の人を見る観察力がありすぎるな、と思う篤史がいた。











それから一時間が過ぎた午後二時頃、ウトウトしていた篤史は部屋の外が騒がしいな、と思い、起きて部屋を出る。

部屋の向かいに宿泊している順一の部屋で直矢が激しくドアをノックしている。直矢以外に哲哉と清もいる。

「宇多川さん、どうかしました?」

篤史は眠たい目をこすりながら直矢に声をかける。

「今日の夕飯でバーベキューの資材を自分一人で用意するのは無理なので、男性陣に手伝ってもらおうと思ってきたんですけど、川田さんが出てきてくれなくて……」

直矢が困った様子で答える。

「合鍵で開けようか?」

哲哉は直矢に言う。

清もそれがいいと頷く。

直矢はあらかじめ持ってきていた合鍵で順一の部屋を開けると、そこには順一と今日子の遺体が発見された。二人の口からは何か毒性のものが出ている。

「寺岡さん! 川田さん!」

直矢は二人の遺体に近付く。

「アカン!! 遺体に触れるな!!」

篤史は大声で直矢に制止する。

制止された直矢は動揺しながら、えっという表情で篤史を見る。

「二人共、亡くなってるで。宇多川、警察を呼んでくれ」

哲哉は冷静に言うと、直矢は戸惑いながらも一階にある電話の元まで行った。

篤史は二人の遺体を見ながら、自分が感じ取った気がかりな事が当たったんだ、と思っていた。

それと同時に、自分は事件が起こったら解決しないといけない宿命なんだ、と決意のような思いが芽生えていた。

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