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色々思う気持ち

篤史が祖父母の家に来て一週間が過ぎた。あれから篤史は色々考えているが何の解決策が見つからなかった。

自分が哲哉に歩み寄ったらいいのか。それとも自分の気持ちを押し通すのか。将来の夢があるのに自分の気持ちを押し通さなければ、恐らく叶える事は出来ないだろう。

それらを考えると安易に自ら歩み寄る事はしないほうがいいかもしれない、と思っていた。

午後十二時、篤史は友達と会うために梅田までやってきた。阪急梅田駅の改札口でその友達を待つ。しばらくすると同じクラスで部活も同じ長瀬翔也が、篤史に手を振りながらやってきた。

「久しぶり」

翔也は久しぶりに会う友達に屈託のない笑顔を向けて言う。

「そうやな。元気にしてるか?」

「もちろん。小川も元気そうやな。昼飯食べてゆっくり話そうか?」

翔也は早速昼食を食べようと提案する。

二人は洋食屋に入って、注文を済ませた。

「知和から聞いた。何があったんや?」

篤史の弟である知和から聞いた話を篤史にする。

家出の話題をされた篤史は、何も答えないまま黙ってしまう。

「言わへんくてもある程度の事は聞いたから知ってるけど、無理しすぎと違うか? 大体、頑張りすぎやし、全部とは言わへんけど、どれか一つ辞めてもいいんと違うか?」

何も言わない篤史に、翔也は辞めるべきなのでは、と言う。

「辞める……?」

「うん。全部、完璧にこなそうとするから自分の気持ちがおかしくなってくる。しかも、今まで親に反抗せずにきた結果がこれやろ? 一度くらい反抗したって大丈夫やって……」

翔也は聞き分けが良すぎるにもどうか、と思っていた。

それはただ単に自分が親に反抗的な態度を取った事があるというのもあった。自分と正反対の篤史に聞き分けが良すぎるのではないかという気持ちを持っていた。

「翔也の言うとおりやな。オレは親の言いなりになりすぎてたところがあった。それは反省しないとアカンところや。でも、今のところ何かを辞めるつもりはない」

篤史は今自分がやっている頃全ては、自分にとって大切なものだと答える。

「そうか。小川がそう言うならそれでいいと思うで」

翔也は篤史がそう言うなら引き止める事はしないと頷く。

「それにしても翔也は親に反抗的な態度を取った事があるって言うてたやんな? そういうのを聞いてたら羨ましいって思ってしまう。思春期に反抗的な態度を取るっていう当たり前の事がオレには出来てへん」

自分の気持ちを親にぶつけるという行動をしていない事にもどかしい気持ちを持っていた。

「でも、この前、親が祖父母の家に来てくれて初めて反抗的な言葉を言うた。こんなこと言いたくないって思ってたけど、自分の思いが少しは親に伝わったと思う」

人生初めての反抗的な言葉を言った事に若干の負い目がありながらもこれが普通なんだ、と思っていた。

「そういうことがあったんやったらこれから先の親子関係は大丈夫やと思うで」

翔也は篤史が親に反抗的な態度を取ったという事に内心安心しながら言った。

そこに二人が注文していた物が届く。目の前に置かれた食べ物を見て笑顔になる。

二人が注文したものは、ハンバーグとエビフライとサラダとライスのセットだ。

久しぶりに友達と昼食を共にする篤史は、今日くらいは何も考えずにいよう、と思っていた。

食事を終えた二人はカラオケに行く事にした。二時間歌った後、ジュースを買い、近くのベンチで座って飲む事にした。

「とりあえず、小川が元気そうで良かった」

夏休みに部活に来ない篤史を心配していた翔也は、今日久しぶりに会った事で一安心したような口調だ。

「まさか、家出するとは思ってへんかったけどな。知和から聞いた時、何事かと思った」

「オレだって自分が家出するなんてこれっぽっちも思ってへんかった。でも、今回ばかりはそうもいかへんかったから……」

篤史はジュースの入っている紙コップを片手にため息交じりで言った。

「もしかして、坂本の事も関係してる?」

それとなく育江の話題を出す翔也。

翔也も留理と里奈の後に育江と付き合っている事を知った人物の一人だ。

育江の事も関係しているのかと問われた篤史は、ため息をついた後に頷いた。

「坂本が殺人を起こすためにオレと付き合ってたんかなって思うと辛くて……。オレは純粋に坂本が好きで付き合ってたから余計に……」

篤史は今にも泣きそうになりながら答えた。

「確かに最初はそうやったかもしれへん。でも、小川の事も好きやったと思う。そうじゃないと付き合わへん。結果、犯罪を犯してしまったけどな。小川がここまでショックを受けてる事は真剣に人を好きになったって証拠やないかな?」

翔也はここまで人を好きだと思えるのは出来ないと言う。

「翔也……」

「オレなんかそこまで人を好きになった事はないで。しばらくは坂本の事はショックやろうけど、忘れられへんのは当たり前や。第一、周りが忘れろって言うたところでそんなん無理やし、忘れるかどうかを決めるのは小川や」

育江との事は周りがどうこう言えるものじゃないと言う翔也。

「そうやな。翔也にも心配かけたな。今日はありがとう」

篤史は改めて心配かけた事を言う。

「いいんや。小川の顔を見れただけで良かったからな」

翔也はなんでもないように言う。

篤史も翔也の言葉で心の鎖が落ちたような気になっていた。

まだ根本的な問題は解決していなかったが、翔也と会った事で篤史の中で何かが変わっていく感じはしていた。











盆が終わり、新学期が始まるまで一週間を切った二十八日、篤史は夏休みの宿題の追い込みをしていた。夏休みの宿題は、英語のプリント五枚、数学の裏表プリントされている用紙七枚、国語は漢字検定三級の冊子一冊と読書感想文、社会が歴史上の人物一人をレポートだ。

読書感想文以外の宿題はすでに終わっている。アニメ以外の本を読んで感想文を書くのだが、篤史は今まさに本を読んでいる最中だ。

国語の宿題の提出は、二学期に入って一回目の授業なので、まだ少し余裕はある。

半分読み上げた篤史は、本から目を離してため息をつく。そして、寝転ぶ。

盆は親戚と集まり、いとこ達とも過ごした。哲哉のほうのいとこは六人いる。その内、一人が篤史と同い年のいとこがいる。

亜希奈のほうの祖父母にも会いに行った。亜希奈のほうにも同い年のいとこがいるが、どちらかといえば哲哉のいとこのほうが同性という事で仲が良い。

亜希奈の祖父母の家には二泊三日泊まった。二日目は親戚一同でプールに行き、その後、外食をして帰ってきた。

あれから哲哉と話す事はなかった。盆に会ったが、親戚もいたためこれからの事を話さなかった。

この間、篤史は担任から頼まれて特進コースの強化合宿にも参加した。そこで事件が起こり、高校生探偵の推理力を駆使して解決して帰ってきた。前もって制服は持ってきたため、特に問題はなかった。

その時も担任と幼馴染からは何も聞かれなかった。それは篤史にとっては好都合だった。

明後日の三十日には家に帰る事になっている。哲哉が有給を取って、亜希奈と共に昼前に迎えにきて、午後に帰る予定だ。

本当は帰りたくないが、学校を通うには遠すぎるし、いつまでも哲哉の祖父母に迷惑をかけられなかった。

(もうすぐで夏休みも終わりか……。ホンマにこの夏休みはこれで良かったんやろうか? 初めての家出、初めての反抗。初めての部活を長期に亘って休んだ事。そして、初めてゆっくりと夏休みを過ごした事。この夏はオレにとってはなにもかもが初めての夏やった)

天井を見つめて思う篤史。

一時は学校を辞めて、哲哉の祖父母の家に近い高校に通おうと思ったが、さすがにそれを行動に移す事はしなかった。しなかったというより出来なかったのだ。

そこまでしてしまえば、両親はおろか哲哉の祖父母にも迷惑をかけてしまうのは目に見えていたからだ。

(多分、高校卒業したら家を出るんやろうな……)

篤史はぼんやりと思う。

自分の夢を叶えるためには大学に進学しないといけないのだが、今の気持ちのまま、家から大学に通えない、と思っていた。

両親さえいいと言えば、関西以外の大学に進学しよう、と篤史はそう考えていた。

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