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ラフォリア  作者: 流星
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第四話

 台所を出て渡り廊下を進むと、手入れの行き届いた花壇と小さな噴水が置かれた中庭が見える。


「この中庭を抜けて左へ曲がると、屋敷の正面に出られる。裏庭から逃げるより、ここから抜ける方が街が近くて良い」


 男はシャルリーンを抱きかかえたまま、屋敷を案内していった。

 

「あ、あの……。お、降ろして?

 逃げたりなんかしないから……」


「お前、歩けないだろう? 腰が抜けているのに」


「あなたの腕が……。怪我をしているのに……」


「俺の心配をしてくれるのか。

 変わっているな……」


 男はシャルリーンを降ろすことなく、屋敷の案内を続けた。


「ここが俺の部屋だ」


 扉を開けると、そこはシャルリーンが目覚めた時にいた部屋だった。


 男はシャルリーンをベッドの上に降ろし、窓に目を向けた。


 シャルリーンが抜け出した窓は開きっぱなしで、カーテンが風で大きく揺れていた。


「ここから逃げようとしたのか……」


 男は静かに笑いながらカーテンを部屋の中に戻して窓を閉め、シャルリーンに近付いた。


「お前、逃げないって言ったよな?」


 男がシャルリーンの目をじっと見る。


 シャルリーンも男の目を見て黙って首を縦に振ると、男はシャルリーンの頬を撫でた。


「じゃあ、そこで待っていろ」


 男はそう言って、部屋から出て行った。


 

 シャルリーンは男が戻って来るまでベッドの上で両膝を抱え、じっとしていた。


 手を開いて、男の血がべったり付いた自分の手を見ていると、ナイフの刃先を持つ男の手から血が溢れ出す生々しい光景が甦って、手が震える。


『人を傷つけてしまった……。

 それなのに、どうしてあの人は笑っているの?』


 シャルリーンが開いていた手を握り締めると、ボタボタと涙が溢れた。


「どこか痛むのか?」


 シャルリーンが顔を上げると、いつの間にか男が洗面器と木箱を持ってベッドの側に立っていた。


 シャルリーンが涙を拭って首を横に振ると、男は持っていた洗面器と木箱をサイドテーブルに置いて、ベッドに腰を降ろした。


 男は洗面器に入った水にタオルを浸し、絞ってシャルリーンの頬を優しく拭った。


「怪我はしていないか?」


 シャルリーンの腕に付いた血を丁寧に拭き取っていく。


 シャルリーンは首を横に振った。


「これは、あなたの血。

 怪我をしているのは、あなたでしょう?」


「俺の傷は大したことがない」


「……。そのタオル、貸して」


 シャルリーンがそう言うと、男は洗面器でタオルを洗い、軽く絞ってシャルリーンに渡した。


 シャルリーンは腕に付いた血を拭き取るため、男のシャツの袖を捲った。


「……!」


 男の腕に付いた無数の傷を見て、シャルリーンは絶句した。


「フッ……。だから言っただろう?

 この傷は怪我の数に入らない」


 古い傷から最近できたような深い傷まで腕にびっしりと刻まれていて痛々しい。

 どんな生活をしていたら、こんなに傷ができるのだろう……。


 シャルリーンが、新しい傷に当たらないよう、血で汚れた所を拭き取っていると、男が笑った。


「そんなに丁寧に拭く奴、初めて見た」


 男はシャルリーンに預けている腕と反対側の手で、シャルリーンの髪を撫でた。


「髪にも血が付いている。

 シャワーを浴びた方が良いかもしれないな……」


「手を開いて」


 シャルリーンの言葉に男が手を開くと、手のひらにナイフの刃の傷が刻まれていた。


「どうして……?

 どうしてあんな事をしたの……?」


 シャルリーンは男の手のひらを見つめた。


「お前が死のうとしたから」


「……。……もう死のうとはしない。

 少なくとも、あなたに復讐するまでは」


「ハハ。そう言ってくれると安心だ。

 二十四時間、お前を見張っているのも大変だからな」


「……」


「お前、名前は?」


 シャルリーンは男の質問に少し驚いた。


 この男は、シャルリーン事を何も知らずに拐ったのだろうか。


「……。シャルリーン」


「シャルリーン。

 お前が復讐を果たすまで、この屋敷にいるといい」


 男はそう言って、にっこりと微笑んだ。


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