同じ能力の場合
樹海に赴いた当初の予定である農地に植える植物の採取をしながら一旦戻ってきた一号と四号。
そして採取したものは拠点に置いて、とある検証のために植物本体の待つカルデラまで戻った。
検証とはなにか?
それは今回手に入れた察知の魔法についてである。
具体的にいうと同時に同じ能力を所持した場合どうなるかということを検証してみようと紬は考えたのだ。
現状では能力を移し替えるというやり取りは植物本体に繋がっていなければ行えない。だからこそわざわざ植物本体のもとまで戻ってきたわけである。
とりあえず一号と四号を接続してから、それぞれから察知の魔法の能力を回収してみた紬。
一応のところ紬は予想としていくつかの想定があった。
同じ能力を同時に所持した場合、より強力な能力になるだとかそんな予想である。
しかし実際に試してみたところ、予想に反してこれといった変化はなかったのである。
効果範囲が広くなったりしたわけでもないし、効果が高まったわけでもない。
他の能力についてはわからないが、察知の魔法については同じ能力を同時に所持したところでこれといったメリットは存在しないということなのだろう。
それでもバロメッツの場合だとそれぞれの羊に振り分けることができるので、紬にとっては同じ能力を複数集めることには意味がある。
改めて考えてみると同じ能力を所持してメリットがあったならば、とある問題があるなと紬は思った。
現時点での紬の予想が正しいのならば、同じ能力を持つのは同一種族ということとなるだろう。そうすると同じ能力を得ることで強化に繋がるのだというのなら同種同士の共食いということになるのではないだろうかと紬は考えたわけだ。
ここでふと紬は疑問に思った。
異形から生まれるのは同じ異形なのだろうかと。
こんな疑問を持った理由は同種同士の共食いを考えた時、異形という同種がどのように増えるのだろうかと思ったからだ。
紬が見たことのある例を挙げると剣鹿と風狼の群れだ。
剣鹿は普通の鹿が種のようなものを取り込むことで異形へと変わったことを確認している。
では風狼も同じように普通の狼が種のようなものを取り込むことであのボスのような風狼へと変わるのだろうか?
剣鹿の群れは雄だけの群れだったようなのでわからないが、風狼の群れはどうだったのだろう? あの群れの中に風狼の相手や子供はいたのだろうか?
もしもあの中に風狼の子供がいたのならば異形として生まれるわけではなく、遺伝するわけではないと考えていいのかもしれない。
あるいは異形と普通のものでは繁殖をすることは不可能である可能性もあるだろう。
バロメッツにしても種から芽を出したと思われるのに、今のところ種を作ることができそうにないのである。種を残すという能力が異形には存在していないという可能性は否定できない。
まだまだ異形について知らないことだらけなのだなと紬は改めて思ったのだった……。