角兎
農地も用意したということで、そこに植える植物を探そうと樹海へと入った紬。
今回樹海の探索に行くのは一号と四号だ。
若草色の四号が偵察役として先行し、その後を一号がついていくというかたちである。
四号に今振り分けられている能力は浮遊の魔法と熱を見る魔法の二つだ。
熱を見る魔法で周囲を索敵しつつ、四号は浮遊の魔法によって音もなく樹海の中を進む。
その後ろを少し距離をとったままでついていく一号は眠りを誘う煙の魔法と察知の魔法、水を生成する魔法の三つの能力を割り振っていて、もし戦闘になった時のための構成となっている。
そんな二体の羊たちが樹海のなかを進んでいると、四号の視界に小さな熱源が写り込んだ。
地面の下、木の根元に巣穴を掘り潜んでいる存在がいることに気がついた紬。
この熱を見る魔法もなかなか使い勝手がいいなと思いつつ、紬はその熱源の形を確認しているとそのシルエットに見覚えがあることに気がついた。
そのシルエットは兎だった。それもただの兎ではない。額には長く伸びた一本の角。
そう、四号の瞳が捉えたその熱源は角兎だった。
これはチャンスだと紬は思った。
以前に角兎から得た種のようなものからは察知の魔法を得ることができた。
そしてバロメッツの羊たちに能力を割り振ることができると知った時、また同じように角兎から種のようなものを得ることができたならば、別々の羊に察知の魔法を割り振ることができるのではと考えたのだった。
その時は角兎を再び見つけるのは難しいだろうと思っていたのだが、その角兎を見つけることができている。
この機会を逃せば次のチャンスがいつ訪れるかなど全くわからない。
絶対にこの角兎は逃さないと決意した紬。
当の角兎はまだ羊たちの存在に気がついていないようだ。
やはりこの角兎は察知の魔法は使っていない。それとも角兎だからといって同じ魔法を持っているわけではないのか……それもこの角兎から種のようなものを得て取り込んでしまえば答えは出るだろう。
一号が魔法を使い眠りを誘う煙を出す。その煙を動かす魔法で巣穴の中へと流しこむ。
熱を見る魔法を使っている四号の目は角兎の動きが止まったことをしっかりと確認することができた。これでもう逃がすことはないはずだ。
さらに魔法で巣穴に水を流し込み角兎を溺死させ、動かす魔法で穴の外へと死骸を運び出したのだった……。