逃走中
逃げる紬は追いかけてくる蜘蛛の方へと木を倒していく。
枝葉の広がった木々による攻撃は思った以上に範囲が広い。
蜘蛛も大きく躱さざるをえず、簡単には紬のもとまで辿り着くことはできそうにはない。
その間に四号のもとまで引き寄せたサラマンダーから取り出された種のようなものを飲み込む。
これで得た魔法を使いこなさなければ蜘蛛に捕まってしまい四号の身が危険である。
やはりバロメッツは問題なく取り込むことができるのか、他の異形たちのように苦しんだりといった副作用は出ていない。
もし副作用が出て立ち止まってしまっていたら蜘蛛に追いつかれていただろうから、ひとまず第一関門は突破したといったところか。
そして角兎の魔法を得た時と同じように、このサラマンダーの種のようなものを取り込んだことで新たな能力の使い方も不思議と理解することができた。
新たに得た能力である眠りを誘う煙の魔法を後方、蜘蛛のいる方向へ撒き散らす。
これに蜘蛛がかかれば万々歳だが、そう甘くはないだろう。
しかしこれでさらに蜘蛛は四号を追いづらくなったはずだ。
眠りの煙をなんとかしなければ真っ直ぐに追いかけてくることができなくなったわけだ。
サラマンダーに近づいた時のように木の上を行けば煙との接触を避けることができるだろうが、四号との間にあるいくつかの木はカルデラ湖の水を仕込んで倒しているのでそれを辿ることは難しい。なのでやはり真っ直ぐ追いかけることはできない。
これでなんとかなるかもと紬が思った時、蜘蛛の身体からバチバチと火花が散り、四号の目の前に岩の壁が現れた。
普段ならば視界共有で余裕を持って対処できるのだが、現在四号以外はカルデラに集結しているという最悪のタイミングであった。
衝突は免れたが対処が遅れ、その間に蜘蛛との距離が詰まってしまった。
そして進路を塞いだ岩の壁は時間が経つと光となって消えてしまった。
突然現れた岩の壁は蜘蛛の魔法だろう。
おそらく鉄の槍を作ったのと同じ魔法。
どうやら蜘蛛の使う魔法は鉱物生成。
鉄や岩などの鉱物を生成することができる魔法のようで、目視できる距離に出現させることができるのだろうと紬は考察する。
やはり蜘蛛から逃げ切ることは一筋縄ではいかないようだった……。