ダッシュ
異形同士が戦い、片方が倒れたのならば生き残った勝者が取る行動は決まっている。
倒した異形の力がこもった種のようなもの、それを取り込むことで異形たちはさらなる力を得るのだ。
蜘蛛が動き出したのを確認した紬は、あまり悠長にはしてられないなと撤退などのための行動を開始する。
そして蜘蛛がボロボロとなったサラマンダーの遺体からそれを取り出す。
その種のようなものの大きさは今まで紬が目にしたものの中で一番大きいものだった。
巨大蜘蛛の口がその種のようなものを取り込みさらなる力を得るのために大きく開かれ、それを飲み込む……その直前に種のようなものは魔法によって弾かれて吹っ飛んだ。
紬の使った動かす魔法によって飛び出した水弾によって弾かれたのだ。
ただでさえ今の時点で紬には巨大蜘蛛に勝つ手立てが見えていないというのに、これ以上強くなられては本気でどうにもならなくなってしまうと考え妨害を行ったのだ。
そして弾いた種のようなものがふっとんだ先には、紬が事前に水塊を待機させていた。その予め準備していた水塊で種のようなものをキャッチして確保した紬。
すでに若草色の四号はバロメッツの動かす魔法を操れるギリギリの距離まで離れていた。
度重なる魔法の訓練によってすでに紬の魔法を使える範囲は目の届く範囲ならばその動きを操れるほどに延びていたのだ。
種のようなものは奪取した。種のようなものを包んだ水塊を手元に寄せながらあとは全力ダッシュで逃げ切るだけだと最後の小細工の仕上げを行いつつ逃げ出す算段を整える紬。
紬の視線が蜘蛛の視線とぶつかった。どうやら今の妨害を行ったのが紬だとバレたらしい。その八つの目に睨まれると足がすくみかける。
紬はやったことはないがピンポンダッシュをして逃げ出す子供もこんな心境なのかしらと少々場違いな感想を持っていた。
そう睨んでくれるな、先に私から獲物を、サーベルタイガーを掻っ攫ったのはそちらが先だろう。これでおあいこプラマイゼロじゃないかと紬は蜘蛛に伝わるはずもない言い訳を考える。
まあ、種のようなものを回収するために水塊ごとこちらに運んでいるのだから見つかってしまうのは仕方がないことである。
よく三十六計逃げるに如かずというが、これはあれこれ策を練るよりもとっとと逃げるに限るという意味の言葉であるが、この現状で何も策を講じなければあの蜘蛛はたやすく四号を捕らえてしまうだろう。
だから逃げる直前まで紬は小細工を仕込んだ。
こちらに近づく蜘蛛めがけて樹海の大木が倒れこむ。
普通に躱す蜘蛛であったがその直後驚くように糸すら使ってさらに飛び退いた。
倒れてきた大木が途中で倒れる向きをかえ、蜘蛛が躱した方向へと軌道修正を行ったのだ。
当然これは紬の仕業である。
バロメッツの動かす魔法。その制御下に置かれているカルデラ湖の水を大樹に吸わせることで少しの間ならば動かすことができるのであった。
魔素が含まれるカルデラ湖の水を取り込んだ木はやがて枯れてしまうが、蜘蛛の足止めに利用するだけの時間くらいは保つ。
流石に自由自在に動かすなんてことはできないが枝葉を動かしたり倒れる向きを変えるくらいは問題ない。
紬は出来る限りの妨害を行う腹積もりだ。
そして仕込んだのはこの一本だけではない。
蜘蛛が紬に追いつくまでの間には紬が仕込んだ数本の樹海の木が待ち構えているのだった……。




