槍の雨
蜘蛛の使った魔法によってソレらは現れた。
先端が尖った細い棒上の金属。
鉄の槍。それが複数である。
サラマンダーの頭上にいくつも現れた鉄の槍は重力に引かれることで直下を目指す。
まさに槍の雨という光景が広がり、眠りの煙は掻き消されその代わりに辺りにはサラマンダーのものであろう鮮血が舞っていた。
その鉄の槍はすぐに光となって消えてしまい、あとに残ったのは無数の穴が空きズタボロとなった血だらけのサラマンダーの亡骸だけであった。
サラマンダーにはあの槍の雨を防ぐ手だては残されていなかったのだろう。
もはやワンサイドゲーム。終わってみれば蜘蛛が圧倒してしまったかたちとなった。
その一部始終を見ていた紬は、目の当たりにした蜘蛛の魔法について考察する。
あの槍は何もない空間に現れ、そして役目を終えると光となって消えていった。
どのような仕組みで槍を出しているのかはわからなかったが、おそらくは魔法で作られた槍だったのだろう。
紬が使うバロメッツの動かす魔法はカルデラの水などのすでにその場にあるものを利用しているわけだが、蜘蛛の使った魔法は何もない場所に魔法でものを作るといった点が違っているなと紬は比較していた。
手元ではなく相手の頭上に現れたことから魔法の起点は割と自由に設定できるようで、有効範囲も少なくとも五メートル以上はある。
ただし槍を作るだけで、それを発射したりすることはできないのだろうとも紬は考えた。
あの槍は急加速することもなく、ただ落ちていっただけだったからだ。
射出することができないからこそ頭上から落とすという手段をとっているのだと思われる。手元に作ったとしたら直接掴んで投げでもしないとならないのかもしれない。
あと注目する点はその数だろう。
蜘蛛が魔法で一度に展開した槍の数はおよそ二十本ほどだった。
もしも紬が同じだけの数のものを魔法で動かそうと思ってもかなり手こずることとなるだろう。
操作しているわけでなく、ただ落としているだけというのがそれを可能としているのかもしれない。
落とすだけであるのならば躱しやすそうだが、そこで蜘蛛の使った投網が効いてくる。
投網で相手の動きを封じ、動けない相手の頭上から槍の雨を降らすという組み合わせが蜘蛛の必勝パターンなのかもしれない。
初めて巨大蜘蛛と出会った時に、すぐに逃げることを決めたあの判断は間違っていなかったと、紬は過去の自分を褒めてやりたい気分になった。