巨大蜘蛛の魔法
蜘蛛の投げた網は、あまりにもあっさりとサラマンダーを捕らえることに成功していた。
しかしこの投網によるダメージはまったく無い。サラマンダーはいまだ健在である。
つまりはとどめを刺すために蜘蛛はサラマンダーに近づく必要があるのだが、紬は知っている。サラマンダーにはまだ打つ手が残っていることを。
蜘蛛は背後から近づこうとしているようだが、たとえ動けない状況であったとしてもサラマンダーの魔法は全方位に向かって噴出されるのだ。蜘蛛が射程範囲に入ってきたならばサラマンダーは眠りを誘う煙の魔法を使うだろう。
だが紬の予想は外れることとなる。
蜘蛛は近づきながらもバチバチと火花を出し始めた。それを見てはじめは蜘蛛が魔法でサラマンダーにとどめを刺すつもりなのかと紬は思ったのだが、それは攻撃の魔法ではなかった。
魔法の射程に蜘蛛が入ったことでサラマンダーが眠りの煙を噴出した。
だがその直前に蜘蛛がその場を飛び退き煙の射程の外へと離れたのだった。
それを見て紬は察した。
今のは角兎の察知の魔法だ。蜘蛛は近づきながら察知の魔法を使うことでサラマンダーの反撃に備えていたのだろう。
紬でさえ簡単に倒すことができた角兎だ。生粋のハンターである蜘蛛が角兎から種のようなものを得ていてもなんの不思議もない。
むしろまだまだ使っていない魔法がいくつもあるのではないかと考えてしまう紬。このまま観察を続ければ他の魔法も見ることができるかもしれないなと紬は思った。
現在の状況はというと、網にかかって満足に動けないサラマンダーを取り囲む眠りを誘う煙のせいで迂闊に近づくことができない巨大蜘蛛が睨みを効かせているという感じだ。
その煙の効果を知ってか知らずか蜘蛛はサラマンダーに近寄ろうとしないでいる。
そして蜘蛛の身体からまたバチバチとスパークが迸る。魔法を使う前兆だ。
どうやら煙の射程の外から攻撃できる魔法が蜘蛛にはあるらしい。それが蜘蛛の本来の魔法なのか、それとも別の異形から手に入れた能力なのかはわからない。
ただ紬は理解した。サラマンダーにも別の魔法でもない限り蜘蛛の勝利は揺るがないだろうということを……。