投網
一方、樹海に残ってサラマンダーを観察していた若草色の四号。その現場はかつてない緊張に包まれた雰囲気となっていた。
以前に遭遇した巨大な蜘蛛が樹上からサラマンダーにゆっくりと近づいているのを四号の目が捉えていたからだ。
サラマンダーと巨大蜘蛛。どちらも紬が戦うことを避けた相手であるが、この二体がぶつかり合うことになった場合に、どのようになるのか紬には想像もつかなかった。
なぜならばサラマンダーのことはここ数日観察を続けていたがためにそこそこの予想を行うことは可能であるが、蜘蛛の方は全くと言っていいほど情報がない。
紬がこの蜘蛛と遭遇したのはサーベルタイガーを横取りされた時だけである。
その時はその姿を確認した時点で一目散に撤退を決めたのだから情報がないのも致し方ないことだろう。
わかっていることはといえば、三メートルを越す巨体でありながら音もなく忍び寄り、網状の糸を投網のように使い獲物を捕らえることぐらいである。
そして今まさにサラマンダーに向かって樹海の木々を伝って頭上から忍び寄り狙いを定めているというのが現状だ。
外部からその現場を視ていた紬であったからこそその存在に気がつくことができたが、恐らくサラマンダーはまだあの巨大蜘蛛というハンターの存在に気がついてはいないのだろう。
もしも気がついていたならば魔法を使わない手はない。サラマンダーには眠りを誘う煙の魔法という射程の長い反撃手段があるのだ。眠らせることさえできればどうとでもなるはずだと紬は考える。
しかし、サラマンダーの方には動きが見られない。
やはり蜘蛛に狙われていることに気が付いていないのだ。
紬が覗く望遠鏡の先にはここ数日見慣れたのと何一つ変わらないサラマンダーの姿があった。
そしてすでに狙われているサラマンダーと樹上から迫る蜘蛛との間に枝などの邪魔になるような物は存在していなかった。
そしてついに、サラマンダーの頭上数メートルの高さからその身体を覆うように広げられた網が投げられたのだった……。
感想を読んで気付きましたが、読者の皆様のおかげでブックマークが100件を超えたようです。
ブックマークしてくれた方々にお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
これからも楽しんでもらえるよう頑張って更新を続けようと思いますので、今後も本作品をよろしくお願いいたします。