角兎の魔法
種のようなものを取り込んだことで身体から火花が散り苦しみ出す……などということは全く無かった。
外見に関してはぱっと見、なんら変化が無いように見える。
だが種のようなものを取り込んだことによってなんの変化もなかったわけではない。紬の内側には、たしかに変わった部分があった。
角兎から取り出した種のようなものは、その内に魔法を秘めていたのだと自然と理解できた。
その魔法の使い方も漠然とだが頭に浮かぶ。
その魔法を見たことがないということで使い方も分からないかもと考えていたのは杞憂に終わったようだ。
まあ、その内容を思えば仮に角兎が魔法を使っていたとしても効果など判らなかっただろうなというのが紬の率直な感想である。
角兎由来の魔法を一言で言い表すとするならば、それは察知。
簡単に説明すれば魔法を使うと自身に向けられている敵意や悪意を感じ取ることができるというものだ。
そんな魔法なので使ったところで外見的変化は全くといって無い。
仮に角兎がこの魔法を使っていたとしても傍から見るぶんにはその魔法の内容は判らなかっただろう。
そしてせっかく手に入れた新しい魔法ではあるが、なかなか使いどころに困るものだ。
この角兎の察知の魔法は使っている間だけ効果があるというものだ。
実際のところ角兎相手にこちらの奇襲が成功しているという事実をみれば、常時発動しておかなければこの魔法の恩恵は薄いと思われる。
逆に言うと常時発動することができるのならば、自身に対する敵意や悪意から攻撃などを予測してスムーズに回避行動へと移行することができるだろう。
まだ使えるようになったばかりで察知することのできる範囲はあまり広くないようだが、使い慣れていけばその範囲も拡がっていくようだと自然と理解できた。
とりあえずはできるだけ使っていく方針で行くことを紬は決めた。
できることなら、最低でもサラマンダーの魔法の効果範囲よりも広い距離を察知できるところまで魔法を鍛えたいところである。