種のようなもの
角兎の死体は無事、カルデラまで光となることなく運搬された。
やはりカルデラ湖の水に浸けておくことが功を奏したのだと思われる。
ちなみに今回の運搬方法はというと、死体をカルデラ湖の水で取り囲んで状態の保存を行い、それだけでは浮かせて運ぶことが困難な重さとなるため、その水塊と地面の間を土砂を含んで泥状となったものを滑り込ませ、それをバロメッツの動かす魔法でじわじわと進めることで運搬してきた。
山の斜面の傾斜や凹凸も難なく踏破することができたのでなかなか良い運搬方法として今後も活躍してくれるだろうと紬は考えている。
水塊に包まれた角兎の死体を解体して種のようなものを探しだす。
解体には以前作っていた黒曜石のナイフを使った。
解体といっても紬は動物の解体などしたことのない素人だ。
剣鹿が風狼から種のようなものを取り出していた場面を思い起こしながら死体の腹を裂き、中を探るだけである。
まあ、角くらいは何かの役に立つ時があるかもしれないと、後で切り離しておこうと一応考えてはいるのだが……。
そしてその角兎の亡骸の心臓にほど近い位置にそれはあった。
紬が見たことのある風狼のものよりは小振りではあるが、それは確かにあの時紬が見たものと同様のものだと判った。
種のようなものを取り出した亡骸からは光が溢れ始め、光へと解けていった。
角を取っておこうと思っていたのにそれすらも光となってしまったのは地味に誤算ではあったが、今重要なのは取り出した種のようなものの方だ。
これを取り込むことで新しい魔法が手に入れられる可能性があるのだ。これ以上に重要なことなど今はない。
取り込むにしても植物側では取り込む方法がないので羊の口から飲み込むことにする。
とりあえず念の為にカルデラにいる羊たちは全て植物本体との接続状態にした。
では、実食! とばかりに一号が大きく口を開けてその小振りな種のようなものを飲み込んだのだった……。