棚ぼた
運搬の実験のためにそこそこの量の水を操り樹海まで赴いていた紬は棚ぼた案件に遭遇していた。
道中で遭遇した小動物を魔法の練習がてらに水を操り溺死させていっていたのだが、その中の一匹……いや、兎だから一羽だろうか? ともかく一羽の普通ではない兎が混ざっていた。
その兎には一本の角が生えていたのだ。
その螺旋状の角からしてこの兎は異形のものだと判断できる。
体格も他の兎よりは一回り大きいように見える。
これらのことが意味することは?
この角兎からはあの種のようなものを得られる可能性があるということだ。
つまり紬の推測が正しかったならば、新たな魔法を使えるようになるかもしれない。紬の期待は大きい。
ただ、あいにくと角兎は不意討ち気味に水塊で倒したのでどのような魔法を使ってくるのか紬は目にしていない。
仮に種のようなものを取り込んで魔法を使えるようになったとして、見たことのない魔法を使うことができるのだろうかという不安はある。
まあ、なるようになるかと紬は開き直ってカルデラへと脚を進めた。
わざわざ帰るのには理由がある。
この場で種のようなものを取り出して摂取したとする。その場合魔法を覚え使うことができるのが直接取り込んだ羊だけになってしまうかもと懸念したからだ。
そういう疑念があるために、種のようなものを取り込むのは植物本体と羊たちを接続した状態にしてからにしようと考えているのである。
なので角兎の死体をカルデラまで運ぶわけだが、おそらく今までのことを考えればそのまま運んでいると光へと解けて無くなってしまうと思われる。
そこでまたしてもカルデラ湖の水の出番である。
放っておくと光となって消えてしまう羊毛や雑草などもカルデラ湖の水に浸けておくとその限りではないということはすでに判明している。
ならば角兎の死体も同じようにカルデラ湖の水の中に浸けておけば光化を防げるのではないかと紬は考えた。
そんなわけで樹海にはサラマンダーを見張る一体だけを残して羊たちは接続状態にするために帰還させることにした。
残すのは樹海の景色に溶け込みやすい若葉色の四号だけだ。
残りの羊たちご全員植物本体と接続してから種のようなものを死体から探しだして取り込む。
新たに得られるかもしれない力がどのようなものになるのだろうと、期待に胸を膨らませながら紬は羊たちの歩を進めるのだった……。