火起こし
動かす魔法の訓練は多岐にわたる。
まずは基本として自身の身体を動かすこと。これは主に茎や根を動かすことが中心となっている。
次に自身から切り離した部分を動かすこと。こっちは羊の遠隔操作や葉力なんかが該当する。
最後に自身がしばらく触れていた魔素を含むものを動かすこと。カルデラ湖の水を操り色々と試しているところだ。
その過程で望遠鏡なんかの制作をしたりしたわけだが、レンズがあるならばあれができそうだと紬は思った。
レンズと太陽光を用いた火起こし。いわゆる収斂発火というやつだ。
太陽光を利用して火がつくというのは古くから知られている現象だ。
例えばアルキメデスが海岸に複数の鏡を並べて敵船に太陽光を集め燃やしたという話が有名であろう。
また、近年のオリンピックの聖火も太陽光を一点に集める凹面鏡を使って点火しているらしい。
今まで火が使えないから無理だと判断し保留としたものも多々あるのだ。もし上手く行けばそれらの保留案件の解消に繋がることだろう。紬はさっそくバロメッツの動かす魔法でカルデラ湖の水を操り、レンズを形作った。
水レンズを用いて太陽光を焦点に収束させて、そこに樹海で拾ってきた乾いていて燃えやすそうな枯れ葉などを用意する。
しばらく待つと羊たちの鼻が焦げ付くような臭いを嗅ぎとった。
そして細い線のような煙があがり、やがて小さな種火が灯った。
雲ひとつない快晴のもとその実験は行われ、紬はついに火をつけることに成功したのだった。
以前であれば羊毛や植物本体に火が燃え移るかもと恐れていたところだが、カルデラ湖の水をある程度自由に操ることができるようになっていたのでもしもの時はすぐに消火することが可能である。
とりあえず火のついた枯れ枝を石を積み重ねて作っておいたかまどに焚べる。
火を得たことで紬のできることの幅はかなり増えることとなるだろう。
紬はその火を使う作業に必要なものを思い浮かべ、新たに可能となったものに挑戦していくことにした。