サラマンダーの魔法
サラマンダーを観察し始めて数日が経過した。
サラマンダーは普段じっとしていて、時折思い出したかのように木陰から這い出てきては小動物や大きめの虫などを伸ばした舌で捕まえては食べていた。
四メートル程の巨体を維持するのにその程度の食事で大丈夫なのかと疑問に思う紬であったが、だからこそ普段じっとしているのだろうととりあえずは納得した。
そんな感じで観察していると紬が望遠鏡で覗く先に変化があった。
サラマンダーが恐竜との戦闘に入っていたのだ。
相手は鋭い鉤爪を持つ恐竜。紬の記憶によればヴェロキラプトルとかいう名前の恐竜のはずである。いや、あの映画ではヴェロキラプトルと呼ばれていたが、実際のところはディノニクスとかいうのだったかなと紬は記憶を辿っていた。
その恐竜の鉤爪であればサラマンダーの皮膚など簡単に貫けそうだなというのが紬の感想だ。
さらにディノニクスは一体ではなかった。その四体のディノニクスの群れがサラマンダーを四方から囲む。一体で挑むには相手が大きすぎるだろうが、四体で襲いかかればなんとかなるということなのだろうか?
それは紬がサーベルタイガー相手にとった戦法と同じだろう。多方からの包囲攻撃。サラマンダーが見た目通りの戦闘手段しか持たないのであれば包囲攻撃は有効だっただろう。
そう、そのサラマンダーはただ大きな両生類というわけではなかったのである。
サラマンダーの身体から火花が散った。
今まで何度もその現象を紬は見てきている。それは魔法が使われる予兆である。
その魔法を見逃すまいと紬は望遠鏡を覗いてサラマンダーの一挙手一投足に注意を払う。
そしてディノニクスの攻撃が届く前に、サラマンダーの身体から煙が吹き出した。
煙幕かと咄嗟に考えた紬であったが、その灰色の煙は地を這うように低空を漂っていてサラマンダーを覆い隠すような効果はなさそうだと思い直す。
そしてそのおもたそうにゆっくりと拡がる煙に触れたディノニクスたちがバタバタと次々に倒れていった。
まさかあれは即効性の致死毒なのかと、紬は戦慄する。
広範囲に拡がる煙が致死毒だとすれば、あのサラマンダーの射程範囲はゆうに直径十メートルほどはありそうだと紬は推察する。
もしサラマンダーとの戦闘を考えるならばそれ以上の射程を持つ遠距離攻撃手段を用意しなければならないようだと紬はその手段を模索し始めた……。