望遠鏡
バロメッツの動かす魔法で水を操りレンズを作る。
水のレンズというと紬がまず思い浮かべるのは五円玉の水滴レンズだ。
五円玉の穴の部分に水滴を一滴垂らすだけで完成するお手軽レンズ。確か表面張力が働いて水滴の量で凸レンズにも凹レンズにもなったはずだ。
それだけで物を拡大して映し出すことができるのだから、魔法が使えるのであれば望遠鏡の一つや二つ、今の紬ならばすぐに用意でできる。
とはいえ水以外にも必要なものはある。望遠鏡の形を思い浮かべればわかることだが、周りから余計な光が入ってこないようにするための筒のようなものが必要なのである。
既に筒は立体印刷で作ったものがあるのでそれを使う。
筒の両端に水のレンズを配置してそれを覗く。
それを覗きながら水レンズの位置を調整してピントを合わせていき、遠くの物を見ることができるようにするわけだ。
ちなみに立体印刷で作ったものはバロメッツの樹液を使っているので、その樹液に含まれる魔素を利用してバロメッツの動かす魔法の対象にするのことが可能であると最近行った実験で判明している。
もしこれができていなければ三脚か何か支える物も用意しておかないと、望遠鏡を覗くことすらままならなかっただろう。羊の蹄ではものを掴んで目の前に持ってくることなど不可能だったはずである。
お手製望遠鏡の調整が終わったので今回の観察対象であるサラマンダーへとレンズを向ける。
その望遠鏡を覗けばしっかりとサラマンダーの姿を見ることができた。上下逆さまになって見えてしまっているという問題点は存在しているのだが……。
倒立像、これは望遠鏡に使っているレンズがどちらも凸レンズを設置しているために起こる現象なので接眼レンズの方を凹レンズにすれば映る像は正立像となる。
ただそうすると新たな問題として倍率を上げると視野が狭くなってしまうという欠点があったので、動きのあるサラマンダーの観察という今回の目的を思えば視野が狭まりづらい凸レンズ二枚の方式を採用するのがいいだろうと紬は考えた。
そんな訳で今の形に落ち着いた望遠鏡で紬はサラマンダーの観察を始めた。
果たしてサラマンダーとの戦闘を回避したことは正解だったのか? その答えはこの観察が上手く行けばわかることだろう。