遠視
うだうだと考えていても埒が明かないので紬は今回も賽子を振った。
出た目は四。偶数だ。
紬は出た目に従って、この場を引くことに決めた。
やはり未知の敵と戦うのには用心するに越したことはない。唐突な遭遇戦で逃げられないのならば仕方がないが、今回は避けることのできる戦いだ。
紬が知るファイアサラマンダーの持つ神経毒は、過呼吸を伴う筋肉の痙攣と高血圧を引き起こす毒だったはずだ。
このサラマンダーも同じような毒を持っているかもしれないし、持ってないのかもしれない。
可能性を考えれば、複数の攻撃手段として毒と魔法という武器を使ってくる相手だったかもしれない。
また、相手は両生類だ。もしかすると紬が取ろうとした水塊による窒息という手段が効果を及ぼさない可能性だってあるかもしれない。
まあ、両生類という言葉の意味は水陸両用という意味ではなく、生きていくのに陸地も水辺も必要であるというような意味合いであって、決して両生類だからといって水中呼吸が可能だというわけではないと解ってはいるのだが、如何せん異形の存在というものはどのような可能性を秘めているかわからない部分がある。どうしてもそういった小さな可能性も無視できないと思えてしまう紬だった。
そんなふうにかもしれない可能性というのは、いくらでも挙げることができてしまう。
ようは相手の情報が圧倒的に不足しているのだ。
わからないものほど人は恐怖を感じるのものだ。
理解できないものほど怖いものはないだろう。
つまり何が言いたいのかといえば、今回は撤退はするがただ放置することは良しとはしない。遠くからでも観察を行い、相手の情報を集めることを積極的に行おうと紬は考えていた。
幸いにして最近形になりつつある新たな技術が役に立ちそうだ。
水を操ることができるようになったので、水を使って何か新しいことができないかと色々と思案をしていた紬。
今回使う新たな技術はその時に考案したもののひとつである。
水のレンズを使った遠視。
それが紬がサラマンダーの監視に使えるだろうと考えた手段であった……。
更新開始から二ヶ月が経過しました。
おかげさまで本日確認したところ評価ポイントが200になっていました。
これも本作を読んでくれている皆様のおかげです。御愛読誠にありがとうございます。
これからもから楽しんで頂けるよう、更新し続けていければと考えております。
今後もこの作品をよろしくお願い致します。