聴覚
観葉植物に話しかけるとその状態に影響があるという話を聞いたことはないだろうか? 例えばその植物を褒めたりすれば元気になり、逆に罵声を浴びせると植物は萎びてしまうといった具合にだ。
つまり何が言いたいのかというと、耳という便利なものは今現在この植物な身体には存在していないわけであるが、辺りの音を認識するだけならば耳という感覚器がなかろうとなんとかなるのではないかと紬は考えたわけである。
具体的にいうのならば音とは空気の振動で伝わっているわけで、その振動をどうにかこうにかして音を認識すれば聴覚の代わりになるのではなかろうかということだ。
科学的に証明されたという話は聞いたことがないが、ここは可能性を信じてみてもいいんじゃないかなと思ったり。
信じる者は救われる……主に足元を掬われる……大丈夫。根を張り巡らせてるから転びようがないよ!
褒められる事が良い影響があるというのならきっとプラス思考も関係あるよね。とりあえずポジティブにいこう! と考えてただひたすらに感覚を研ぎ澄ませた紬の努力が実ったのはそれから数日の後のことだった。
結論からいえば周囲の音を拾うことには成功した。それまでは外部から感じ取れるのは光と温度や湿度くらいだったことを考えれば、音を感じ取れるようになったのは大きな進歩であろう。
だが同時に紬は後悔していた。周囲の音を拾ってしまったがために改めて思い出されたのだ。ここが野外であり自分は今動くことのできない哀れな植物なのだと。
病院という安全が保証された部屋で動けないのとはまるで条件が違っていたのだ。人間だった頃には感じたことのない恐怖を覚えた。
もしかしたら自分は草食動物に食べられてしまうのではないかという恐怖をだ。