ディスカッション
五号の飛行によってもたらされた島の情報。
それを可能な範囲で再現した真っ赤な島のジオラマ。
それを囲う四つの影があった。
「メー」
「めぇー」
「メェー」
「めー」
それは今後の方針を話し合う羊たちの姿であった。
「メー」
そう案を出すのは一号。
「めぇー」
三号は生産推し。
「メェー」
四号は農業。
「めー」
五号は羊の増員。
こんな具合に意見を出し合っていた。
とはいえみんな中身は同じ紬である。
なぜこんなことをしているかというと並列思考をまだまだ上手く使いこなせていないと思ったことが理由の一つだ。
普段から別々の思考を行っているのだが、気づけば全員いつの間にやら同じ事を考えている場合が多々あったのである。
なのでそれぞれで違う考えをする練習として別々のお題を出し合っての討論となったのだった。
それぞれの羊の足元には石板がある。
これまで紬が書き遺した日記である。
その日記の中からそれぞれでテーマを探し、それを推しているわけだ。
そうでもしないとどの羊の思考も気づけば同じ案を出してしまっていたからだ。
そんなわけで出された案をまとめると、東の湖の探索、役立つものの生産、農業、新たな羊の増員といった感じだ。
結局のところ全部に手を出すつもりではあるのだが、このセッションで優先順位を決めることとなる。
ちなみに東の湖というのは五号が空から存在を確認したものだ。
山の麓は東側の一部の樹海がひらけていて、そこに大きな湖があったのだ。
更にそこから河が海まで続いているのが島の東側だ。
なお北側は樹海が狭く、その先は岩場。
南側は逆に樹海広く、その先も樹海ほどではないが木々が乱立する森である。
今まで一号が探索していた西側はというと、樹海の先は草原となっているようだ。
それぞれの方角についてはそんな感じで、一号が東側の湖推しなのは先に河があるからである。
だが一号の案は恐らく優先度は低くなるだろう。
やはり水辺だからだろう巨大な恐竜の姿が遠目からでも確認できている。
あの首の長い恐竜は草食であったはずだが、例の鹿の件もあるので油断はできない。
また、肉食の者も水辺には集まってくるだろう。
そんなわけで安全面に不安があるうちは東側への遠征はお預けとなるはずだ。
残る三案のうちどれを優先するのがよいだろうか……。
羊たちのセッションはもうしばらく続くのであった。
ルビの文字制限10文字が地味に足りなく感じてます…。
本来の使い方とは違うせいでしょうけど…。