flying sheep
数日後、晴れ渡るカルデラ上空には天をかける黄金の羊の姿があった。
山頂からさらに高度の高い上空ということで、気温なんかも凍えるほどに冷え込みそうであるが、五号は持ち前の毛皮のおかげか全くと言っていいほど寒さを感じていない。
あと息苦しさも感じないのも不思議なところであるが普通の羊ではないのは今更で、翼までついてるのだからそういうものかと思考放棄。きっと上空にも対応済みなのだろう。
飛行という新たな移動手段を手に入れた紬であったが行動範囲が劇的に拡がったということはなかった。
なぜならば自由に飛び続けるということができなかったのだ。
というのも空を飛ぶのは燃費が悪い。
飛ぶのになにやらエネルギーを消費しているようだ。
飛ぶのが魔法の力ならば魔力とかが消費されるのだろうがバチバチと火花が出ることもないので違うのだろう。
大量のカロリーでも消費しているのか飛び続けると凄い空腹感がやって来るのだ。
ものすごい勢いでお腹が空いてしまうので長時間飛んで行くのは無理だった。
少し飛んだら地上に降りてきてすぐにでも草を食べなければ眠りに落ちてしまう。
そのあたりは一号で試した時と変わらない。空腹がピークを迎えると気絶するように眠ってしまうのはどの羊も同じだった。
少しずつ飛んで距離を稼ぎながら合間に食事のインターバルを挟めばいいと思うかもしれないが、降りたさきで安全に食事を採れるとは限らない。
知らない場所に行くというのならば尚更に安全確保は難しいだろう。
なので今は高度を稼いでの飛行練習と目視による遠距離の地形把握に努めている紬。
五号の目を通して見た風景をそのまま立体印刷でジオラマのように再現していくことで地図代わりにしようとしていた。
全てが真っ赤なジオラマはかなりの異彩を放っているがこれは後々役に立つだろうとそこそこのサイズで作った紬の力作だ。
立体印刷の技術向上のためにやっている面が強い。
それと他の羊の視覚を利用する技術の向上も目指している。
もしも紙と書くものがあったならば他の羊の視界に映る光景をそのまま別の羊の視覚に薄っすらと表示させて、それをなぞるように描き上げることが出来るという技術を編み出していた。
今は赤のみのものしか描けないのがネックである。
なんにせよ出来る事が増えるのは良いことだ。
出来る事が多いというのはそれだけで選択肢が多くあるということである。
飛行技術の向上もそうだが様々なことができるようにコツコツ頑張ろうと思う紬であった……。