アルゴナウタイの求めた物
新たな仔羊が成った。
その羊の姿はアルゴナウタイが求めたソレと同様のものであった。
アルゴナウタイ。
それはギリシア神話に語られる、とある船に乗った英雄たちのことだ。
船の名はアルゴー船。
イオルコス王であったアイソーンの子のイアソンが叔父から王位を返してもらう条件として提示された難題、コルキス王が所有し、眠らないドラゴンによって守られている黄金の羊の毛皮を手に入れるために建造させた船である。
アルゴー船の乗組員を募集して集まったのはヘラクレス、双子のカストルとポルックス、オルフェウスにアタランテやテセウスら神話に詳しくない者でもどこかで名前を聞いたことがあるであろう英雄たち。
その数およそ五十人が集まりアルゴー船で金羊毛を求めてコルキスへと冒険のたびに出たのである。
そんな船旅であるがイアソンは結果的には数々の冒険の末、黄金の羊の毛皮を手に入れるわけだがその話の内容は今は重要ではない。
アルゴナウタイが向かったコルキス。
そこの王がどうして黄金の羊の毛皮を持っているのかという話は、アルゴナウタイの神話とはまた別の神話が関わっている。
ボイオーティアの王アタマースとネペレーの息子であるプリクソスが、アタマースの後妻であるイーノーの企みによって妹のヘレーとともに殺されそうになる。
そこへ神が金色の羊を遣わし、プリクソスとヘレーの二人はそれに乗って逃げることが出来た。
プリクソスはコルキスに到着しコルキスの王アイエーテースに迎えられ、その娘を妻として与えられた。
プリクソスは金毛の羊をゼウスに捧げ、その皮をコルキスの王アイエーテースに贈った。
という内容が紬が知る黄金の羊に関する神話である。
そして紬が知るその神話の内容で重要な部分は黄金の羊に乗ることでプリクソスたちが逃げることが出来たという部分である。
神が遣わした羊がただ黄金の毛を持っていたというだけではなかったのである。
その黄金の羊の背には翼があり、プリクソスたちは翼を持つ黄金の羊に乗ることで空に逃れたのだった。
そう、紬の新たに成った黄金の毛を持つ仔羊の背にもそれがあったのだ。
普通の羊には存在し得ない空を飛ぶための翼。
紬に成った新たな仔羊は翼を持つ黄金の羊だったのだ……。