成長
植物状態で死んだと思ったら生まれ変わっても植物だった件について……問い合わせ先はどこですか? 神様? 仏様? 閻魔様にも謁見なんてしてないですよ?
そんな思考を巡らせる紬であったが、脳もないのにどこで考えを巡らせているのだろうか? なんて考えてみたり、実際に巡っているのは根から吸い上げた水分とかだよね……と思ったりなんかしていた。
取り留めもない思考を続けるのは、思考が途切れたふとした瞬間にもこの意識が薄れてもう二度と戻らないかもしれないなどと考えてしまったからであろうか…。
なんにせよ身体の自由がきかない状態の上。視覚もないとなると精神的になかなかクるものがあるのはたしかだ。暗闇の密室に閉じ込められている状態にも似ている。
あの時、脳死判定ではなく植物状態だとみなされていたならば、点滴などの延命治療を受けていたなら似たような感覚であったのだろうか?
ベッドの上で意識はあるが反応を外に出すことは出来ず、他人の手で生かされるだけの存在……。そう考えるとあの時点で死を迎える事ができ今新たな生を受けたのは幸か不幸か……。
そんなこんな様々な思考を続けつつも今できることを探すうち、気がつけば発芽してから一週間程が経っていた。認め難くも植物に生まれ変わってしまったらしい現状。何かの足しになればと生物の授業で習った植物に関しての知識というものを記憶の片隅から思い出してみた紬であった。
植物といえば光合成。現在進行形で日光を浴びた葉は光合成を行ってエネルギーを生み出しているのだろう。成長するために。植物の成長……正の光屈性? なんとなく頭に浮かんだ?(頭は存在してないので妥当ではなさそうな)単語であるが光の方向に向かって成長することだったような……。正の重力屈性は根が重力方向に伸びること。根が伸びるのは細胞分裂を繰り返しているから…などと思い出せる範囲で思い出し、それらを少し意識してみたところなんとなくではあるが成長のペースが上がっているように感じられた。
一週間で成長したのは身体だけではない。最初の頃に比べれば自身の身体の感覚をより詳しく感じ取ることができるようにもなっていた。縮尺など比較対象がないため判らない部分ももちろんあるのだが、大まかに自身の現状は把握できていた。
大地に根を張り、葉を広げ、天に向かって伸びゆく茎。その先端にはまだ小ぶりながらも蕾のような膨らみもあるようだ。
はっきりとはわからないため自分がどんな植物に生まれ変わったのかわからなかったが、なんとなくではあるが紬のイメージでは蒲公英っぽい。地面に近いあたりから細長いぎざぎざとした葉が何本も放射状に広がり、その中心から負の重力屈性によりまっすぐ伸びる茎は、道端によく見かけたタンポポの姿に似ているのではないかと思うわけだ。
しかしそうなると気になってしまう。はたして自分の寿命はあとどれほどのものなのだろうかと……。花が咲き自身の種類を知ったその時に、はたしてどれほどの時間が残されてるのだろうか……?