葉力
数日後、頭を抱える紬の姿がそこにあった。頭を抱えるといっても比喩的表現であるが……。
紬の前にはずらりと並ぶ血のように真っ赤なマキビシ……。
ダース単位で二十ほど作った段階になってようやく紬は気が付いた。
どうこれを撒き散らすのかと……。
一号たちは羊であるため当然蹄である。蹄ではこれらを掴んで投げるなど不可能であるわけだが、かといって口で咥えて撒き散らすことが可能かといえば、可能ではあるかもしれないが口の中に刺さってしまって大惨事になる可能性のほうがはるかに高そうであると紬は察した。
そもそもとしてこれをどう運ぶつもりだったのか?
木の実などは枝ごと背中の毛に引っ掛けて運んできた一号である。
こんな細々としたマキビシを背中に載せたとしても零れ落ちたものを自分で踏んだり、背中に刺さったり、いざ使おうと思っても撒きかたがわからない……。
そんな失敗が目に浮かぶようである。
とりあえずこの問題は後回しにしようかと諦めかけた紬であったが、目の前にずらりと並ぶソレらをどうにかしないといけないと思い直し、なんとかならないかと知恵を絞る。
このまま放置すると絶対羊たちが踏みつける事故が起こりそうだと思ったのだ。
ひとまずどこかにまとめようと考えた紬。
気分は散らかした玩具をおもちゃ箱に片付ける子供であった。
そんなわけでマキビシと同様に立体印刷を駆使して箱を作り始める紬。
積層法はどうしても時間がかかってしまうのが難点であるが思いのままに物を作れるのは良い所だ。
箱を作っている間に他の手段でマキビシをまとめることを考えてみる。
手軽な方法として思いついたのが自身の葉っぱで包んでみることだった。
紬の葉っぱは最初の頃と形が変わっていた。
最初は根元付近からタンポポの葉のようなギザギザとした葉っぱが生えていたのだが、この前の成長した時から上部のほうから枝葉が伸びて普通のまるっこい葉っぱとなっていた。
わかりやすいイメージとしてはキツネやらタヌキやらが頭にのせているような葉っぱの形といって通じるだろうか……。
ともかく気付けば葉の形も変わっていて、その大きさも紬の今のサイズに合わせてなかなかの大きさとなっている。
その葉を使ってマキビシを包んでみようというわけである。
最初は茎やら羊の蹄や口でなんとか包まなければならないかと考えていたのだが、それは杞憂となった。
不思議なことに紬が切り離した葉っぱは紬の意思に応じて独りでに動き出してマキビシを包み込んだのである。
これって魔法なのだろうか?
そんな疑問も浮かんだが風狼や剣鹿のようにバチバチと火花が出ているわけでもない。
一号たち羊を切り離しても遠隔で行動できるようになったのと同じようなことなのかなと、とりあえずの結論を降した紬。
なんにせよ葉っぱを自由に使えるようになった事実は大きい。
撒き方を考えていたマキビシもこの葉っぱでいくらか包んでおいて使いたいときに広げれば上手い具合に行きそうだと紬は安堵した。
いろいろ試してみたところ葉っぱを動かせる距離に制限があることがわかった。
植物本体の近くならば紬の根っこが下に埋まっている範囲ならば問題なく動かせ、そこよりも離れた場所では羊たちから半径二メートル程までの距離ならば動かすことができるという結果であった。
思わぬところから便利な能力を見つけることができたと喜ぶ紬。
葉っぱを動かす技術に名前をつけることにした。
いくつか案を出したが一番しっくりきたのは『葉力』であった。
魔法とは違う力と考えてみて妖力、それと葉っぱなので葉緑素とも掛けてみたわけである。
上手いかどうかは人それぞれ感じ方が違うであろうが紬はわりかし気に入っていた。
この葉力と名付けたちからは使い方次第でいろいろとできそうだと思う紬。
使い方を模索しながらいろいろと練習してみようと心に決めたのだった……。