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立体印刷




 一号の帰還に登山を要したため数日が経過していたわけだが、その間に紬が何もしていなかったわけではない。


 一号の樹海探索の内容を精査し、自身に足りていない不足しているものがなんなのかと検討していた。


 とりあえず挙げるならば自分以外の生物、特に敵対的な行動を取るであろう生物との関係で必要になるものだろうと紬は考える。


 紬が樹海探索に送り出している羊のような存在は現状では戦闘力皆無であるといっていいだろう。

 以前に獲った白星は植物本体との茎を使った絞殺だったために羊の単独行動中は不可能である。

 

 風の刃を使っていた風狼のように魔法のような力があったならばだいぶ違っていたのだろうが、いくらあの風刃をイメージしようとも紬の体からはあのスパークのようなものは現れず、風が渦巻くようなこともなかった。


 ということで攻撃力を持って迎撃行動を取るというのはまだ難しそうだと紬は判断を降した。

 これが人間のように道具を使えるというのならまだ石やら木材やら利用して武器の一つでも作るのだが、あいにくと羊が使える装備というものには心当たりがなかったのだった。


 そもそもとして仮に武装したとしても風狼のような存在に勝てるようなビジョンは全く見えてこないわけであるが……。

 あの風刃だと建物に籠っていても突き抜けてきそうな予感がある。

 三匹の子ぶたに出てくるオオカミがあの風狼だったならば藁の家も木の家も吹き飛ばすのは一瞬で、あの切れ味を持ってすれば三男豚のレンガの家さえも切り裂くことができるだろうと紬は考える。


 そんなわけで攻撃力だけでなく防御力についても多少の工夫ではどうしようもなさそうだなというのが紬の感想である。

 まあ、考察の基準との能力差がひらきすぎているので仕方がないところもある。

 しかしあの風狼くらいは想定しておかないといけないと紬は判断する。それ以上の存在をすでに目にしていたからだ。


 幸いなことに紬が知る最も強い存在は草食の剣鹿であるので羊な紬がいきなり襲われることはないと思いたいところだ。

 逆に言うと植物本体が狙われると絶望的である気がするが今は羊単体の場合の考察のために後回しである。


 ともかく攻守が絶望的だと紬は判断し、ならばなにがあれば生き延びられるかと考える。


 出した答えは隠蔽と逃走である。


 敵対的な相手に見つからないことを前提に行動し、たとえ見つかってもなんとしてでも逃げ切ることで生存率を上げるしかないというのが紬の見出した答えである。


 隠蔽については若葉色の四号を探索に向かわせることで一号の時よりかは安心できるだろうと思っている紬。

 実際一号は草葉を身にまとい白色を誤魔化していた。葉を潰した汁なんかも塗りたくって匂いの方にも気をかけていたので無事に済んだのだろうというのが紬の考察である。


 逃走についてはなかなかいい案が出なかった。

 剣鹿が高速で動けたあの後ろ脚の強化を使えたならと思ったが、風刃同様に再現できず、もしあの剣鹿から種のようなものを奪えれば使えるのかも…といったところで現実的ではない案だ。

 魔法のことを当てにしている時点ですでに紬の知る現実とはかけ離れているわけだが……。


 次に走力を安易に上げることが無理ならば相手を妨害するのはどうだろうと考える。

 紬が進路妨害で思いつくのは草結びやマキビシだった。

 とはいえ草を結ぶような器用なことは羊の蹄では難しい。

 根っこを引っ掛けることならば今の紬ならばできそうだが、それは植物本体の近くならばという但し書きがつけられる。


 ならばマキビシはどうだろう。

 尖ったものをばら撒き進路を妨害するのだ。

 肉食獣の多くは肉球に刺さって大変なことにならないかなぁ…というのが紬の希望的観測である。


 では尖ったものをどう用意するのかという段になって最近紬が会得した技術が使えないかと試してみたのだった。


 それは立体印刷。


 3Dプリンターの技術を紬なりに真似して再現してみたのである。

 紬が参考にした3Dプリンターの仕組みを簡単に説明するとプラスチックなどの樹脂や金属の素材を溶かしたものを細い糸のように出して重ねていき、熱溶解積層法という技法で立体物を作り出すものである。

 例えるならばソフトクリームだろうか……抽出されたクリームを渦巻くように重ねることでソフトクリームという積層の構造物を作っているので、あれと同じような理屈で層を重ねていくことで立体物を作り出すわけだ。


 紬が日記をつけていた時に使っていた血のように赤い樹液。それを極限まで細く出して重ねていくことで3Dプリンターの積層法を真似してみた紬。


 その結果、樹液は上手く固めることができて試作は成功した。

 そしてここに四方に尖った針を向ける真っ赤なマキビシが完成した。

 あとはこれを量産していこうと考える紬。


 しかしその時の紬はまだ気がついていなかった。


 結局羊の蹄ではいくつものマキビシをうまく撒き散らすことが難しいということに……。

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