彷徨える羊
数日後、一号が四号とともに帰ってきた。
なぜ四号が一緒かといえば、四号には一号を迎えに行ってもらっていたからである。
それというのも、一号が道に迷ったせいだ。
迷える仔羊というか彷徨える羊状態であった……。
帰還するために山へと戻ってきた一号であったがカルデラ湖へと続く隙間がどこにあるのかわからなくなったからだ。
雨が降ってしばらくの間はその隙間から零れる水から虹が生まれているため見つけることが容易になるのだが、晴れ間が続くとそうもいかない。
虹がないときのその場所は内側から見つけることが難しかったのと同じように外側から見つけるのも困難となるのだった。
思い返してみればカルデラ湖に誰かがやって来るのは雨が降って数日の間に集中していた気もする。
やはり虹が見えているときにそれを目指してやって来るということなのだろう。
逆にいえば晴れ間が続くと外からやって来るものは隙間を見つけられなくなるということなのだろう。
そのような理由から、成長し単独行動が可能となった若葉色の四号を一号の迎えにやった紬である。
森の中では目立たなくなるであろう若葉色は山肌の色に囲まれれば虹ほどではないにしても見つけやすい。
さらに植物本体が大きく成長した頃から羊たちはお互いの位置も感覚的にわかるようになっていた。
それを利用して四号は上から一号の位置を把握し、その四号の視界を共有することで一号はカルデラ湖へと続く隙間へ戻ってこれたのである。
さて、一号が探索に出ていたのはなにも情報収集のためだけではない。
そのミッションには物資調達も含まれていたわけで、その成果はそこそこだったと言えるだろう。
数種類の木の実やベリー系の果実などを拾ってきたからだ。
これらを試験的に育ててみようと紬は考えている。
やはり元人間として草ばかり食べるより美味しいものが食べたいと思ってしまうのだ。
かつて紬は節約のために家庭菜園に手を出しており、プランターでミニトマトなんかの野菜を栽培していたことがある。
その経験を活かせば、まして今現在自身が植物であることをフルに利用すればこれらの見つけてきた植物を栽培することも不可能ではないだろうと思っている紬。
やはり食というものは生きていく上で切っても切れない関係であるからして、その改善に力を入れるのも至極当然といえるだろう……。