墓荒らし
一連の出来事を見届けた吾妻紬は一号を撤退させることにした。
これ以上その場にいることはリスクが高まるだけであると判断したからだ。
消えなかった死体とその血の匂いに釣られたのか、あれから多くの肉食獣(恐竜含む)がやって来た。
しかしそのどれもがシカの群れに敗れた。
なかには以前紬を追いかけてきたあのツキノワグマも居たが、剣鹿が放った風の刃に切り裂かれ絶命した。
それらの動物の死骸も同じように中を探られていたが種のようなものを見つけることはなく、死体が光に解けることもなかった。
辺りには濃厚な血の匂いが充満し、この惨状をシカの群れが築いたとは現場を直接見ていなければ信じられなかっただろう。
新たな肉食獣が現れなくなってシカたちがその場から離れていってようやく身を隠していた一号はその場を離れることができたのだった。
一方で山頂のカルデラ湖付近では三号が根本を掘り返していた。
そこは以前掘った穴の位置である。
なぜそんなことをしているのかといえば、種のようなものについて考察していたときにここにも死体があることに気がついたからだ。
以前に絞殺した牝鹿と死なせてしまった二号である。
この死体にも種のようなものがあるのだろうかと気になってしまった紬は三号に墓を掘り返させているわけだ。
しかしその墓荒らしの結果は紬に新たな疑問を増やすだけであった。
二号を埋めた墓からは種のようなものどころか二号の死体の痕跡の一切が消えていた。
場所を間違えたかと思った紬であったが、すぐ隣を掘ればやや腐敗した牝鹿の死体が見つかったため間違えてはいないと判断できた。
では二号もまた、光の粒となり消えたのだろうか?
しかしだとしたら種のようなものが見つからないのはなぜであろうか?
少なくとも今まで紬が見てきた中では種のようなものが見つかる=光の粒になって消える、という図式であった。
さらにいえば全てが完全に無くなった死体はこの二号が初めてである。
そこにはいったいどんな差があるというのだろうか?
紬のその疑問に答えを出せるものはこの場には居なかった……。




