個体差
種のようなものを抜かれたオオカミの亡骸からまたあの光が零れる。
けれどもその光の量は先程よりも少ないように見えた。
そして光が収まってもオオカミの亡骸はボロボロの虫食い状態であるとはいえ、ボスオオカミのものよりもかなりの割合で原型を保っているようだ。
そしてそれ以外の死体の方はというと特に発光するわけでもなくただそこで打ち棄てられているだけである。
この差はなんなのだろう?
個体差?
種のようなものが体内にあったものだけが光に変わったわけだが、種を持つものと持たないものはどこに違いがあるのか。
紬が直ぐに思いつくのは大きさや強さである。
そうすると大きいから種があるのか、種があるから大きいのか、はたまた別の理由か…。
そんな思考の答えを探す間にも状況は動き続けていた。
群れの前に取り出した二つの種のようなものを置いた剣鹿。
そして剣鹿は群れを見渡す。
そしてその群れのうちの一頭で視線を止め、一鳴きするとその一頭が前に進みでた。
前に出たシカは群れのなかでも大きな体躯を持つものだった。
剣鹿の次に大きい。つまりは普通の角を持つなかでは一番大きな個体だ。
そしてまた剣鹿が群れの方へと視線を戻し見渡そうとした時、それを遮るように一頭の別のシカが群れの前に飛び出して来た。
飛び出してきたのは群れの中では比較的小柄な個体だった。
全ての事に興味津々といった感じの目をしていて、好奇心旺盛そうな顔つきもどこか幼さを残しているように感じられる。
しばらくそのシカの顔を睨んで諌めるような顔をしていた剣鹿であったが動じないそのシカを見て諦めたように目をそらした。
そうして前に出た二頭のシカがそれぞれ種のようなものを咥え呑み込んだ。
どちらも剣鹿の時と同じように火花を纏い苦しそうに蹲る。
先に変化があったのは剣鹿が選んだ大きい方だった。
その角が光を放ちながらどんどんと形を変え、鋭く尖った刃のように姿を変えた。
身体も一回り大きくなっているようだ。
一方小柄な方は苦しむようにえずき、結局種のようなものを吐き出してしまった。
それを見ていたボスはそれ見たことかとでも言いたそうな目を小柄なシカに向けたあと再び群れへと視線を向ける。
また新たに吐き出された種のようなものを取り込むものを探しだそうとしているのだろう。
しかし先程の苦しそうな状況を見ていたシカたちは尻込みするように少し後退するものばかりであった。
代わりに先程種のようなものを呑み込み角が刃となったシカが再びその種のようなものを呑み込んだ。
また同じようなことが起こり、身体がまた少し大きくなり、角も大きく鋭くなったようだった。