風刃
紬は驚きその光景に瞠目した。
普通の羊の目であったなら色覚は二色型なので違って見えるのだろうが、やはり紬の場合は普通の羊とは違うのだろう。今の紬の視界は前世と変わらずに色鮮やかに見えている。
その目がボスオオカミから放たれる極彩色の光をとらえたのだ。
種のようなものを抜き出されたのがきっかけだったのか、風狼の死体から光が溢れだした。
いや、その亡骸が解けるように鮮やかな光へと変わり空気の中へと溶けて消えていった。
光が収まった後そこには虫食いにでもあったかのようなボロボロの骨のようなものが残るのみで、それがオオカミであったことはもはや判別は難しいだろう。
そんな非現実的な光景に驚く紬とは違ってシカたちの表情に驚きは無い。
この世界では当たり前の光景だというのだろうか?
そして紬を驚かせる出来事はまだまだ続く。
剣鹿が風狼から摘出したソレを呑み込んだかと思えば、バチバチと身体のまわりに火花が散りはじめた。
さらに剣鹿が苦しむようにうずくまってしまった。
その体表面に浮き上がった血管がドクドクと脈動しているのが見て取れ、その状態がしばらく続いた。
それを見守る取り巻きのシカたちもどこか心配そうな顔つきに見えた。
火花が収まり剣鹿が立ち上がる。
紬の目にはその身体が一回り大きくなったようにみえた。
そこから剣鹿が唸りを上げるとバチバチと火花が散り、目の前の空気が渦巻いた。
風狼が使ったそれと同じような風の刃が剣鹿の目の前に現れ、それは取り巻きのオオカミたちの死骸を次々と斬り裂いた。
あの種のようなものを取り込むことで風狼の能力を奪ったということだろうか?
まだ情報が少なく、理解するには全然足りていないと紬は感じていた。
そして取り巻きたちがボスがやったのと同じように顔を突っ込み、傷口からなにかを探し始める。
これを行うがために一匹も逃がすことなく殲滅したのかもしれないと紬は考察する。
結局見つかったのはオオカミの群れの中でも身体が大きめの二体からのみだったようだが、シカたちは先程のものより小ぶりな種のようなものを新たに二つ見つけ出していた……。