雨上がりの朝
夜中に降った雨で溢れた水が流れ出し一時的に川となったその流れを紬は眺めていた。
本当は朝起きてすぐにでも探索に向かうつもりであったが、雨のせいで長く伸びた毛が水を含んで体が重い。
少しばかり乾くのを待ったほうが良さそうだと考え待機しているところである。
ただの植物だと思っていた頃はあれだけ待ち望んだ雨であったが、羊的には体は冷え濡れるしで全面的に歓迎とは思えない。
身勝手なものだなと思いつつも神ならぬこの身では天候を好きにできるわけがないので仕方がないと割り切ることしかできなかった。
毛皮はまだ湿り気を帯びているが行動に支障が出るほどではないくらいにはなった。
むしろ雨に濡れた足場のほうが問題がありそうだ。
とは言っても人間であった頃の紬ならば転びそうな環境であっても、羊の四本の脚ならばこの程度の悪環境はものともしない。
それでも足元には注意を払いつつ川の流れを辿り、昨日見つけていた隙間へとやって来た。
そのまま流れを追いかけて、その川沿いを左右の壁に角をぶつけないように注意しながら歩く。
蛇行するような川の流れを追っていくと、先の方から聞こえる音が変わってきた。
薄暗かった道も徐々に明るさを増しているのでそろそろこの狭い道とお別れかなと思いながら先に進んだ。
視界が開けたその先で息を呑む紬。
そこが足を滑らせれば大怪我ではすまないような高さで足が竦んだから……ということがないわけではないが主要因は別だ。
眼下に広がるその絶景に紬の心は奪われたのだ。
山頂から溢れる水は風に吹かれて舞い上がり空に虹の橋をかけている。
山の麓には樹海の深い緑が広がり、そこに住む生き物たちの姿を覆い隠している。
更に先には草原や湖、森や岩場に砂浜とまさに大自然といった景色に、それらすべてを詰め合わせた島を囲う広大な果ての見えない大海。
紬が立つこの場所は大海に浮かぶ自然豊かな島。
建物はおろか人工物はまったく見えない。
おそらくは無人島であろうこの島で紬を待つのは幸か不幸か……。