光芒
答えが出ない疑問はとりあえず三号の頭にまる投げにして一号は探索のほうに思考を割く。
二つの頭による頭の切り替え(物理)である。
しばらく歩き西側にたどり着いた紬は辺りを探る。
ここ数日で紬のもとまではやって来なかったが数匹の動物が西側から現れていた。
そのため獣道なりなんなり、なにかが西側にあるのだろうと当たりを付けていたのだった。
しかし紬の予想に反して見渡してみても東側と西側の差がさっぱりわからなかった。
見渡してみても似たような地面にも周りを囲むような斜面にもさほど変わりがあるようには見えない。
予想では湖から川が流ているのではと考えていたのだが、あてが外れてしまった。
いや、よくよく考えてみればここ数日は湖の水位は変わっていただろうか?
記憶を引き出し、三号の目で普段一号が眺めていた位置から湖の水位を確認してみる。
すると記憶通りであるならば牝鹿が現れた頃からの水位の変化はほぼ無いように思われた。
そのことから考えるに雨などで水量が増した時のみ溢れた水が流れ出るのではないかと紬は察した。
おそらく今の水位がこの湖の標準的な水位なのだろう。
さて、雨を待てば流れ出る川が現れるかもしれないがどうしたものやら…と紬が途方に暮れている間に日没が近づいていた。
とりあえず対岸からも一号の姿は確認できるから、一号にはその場で明日に備えてもらおうかなと紬が考えていた時、一号の瞳は一筋の光を捉えた。
すでに太陽は斜面の向こうに姿を消しているのだが、地面には光芒が現れていた。
一号の視線が追った先には一続きに見えていた外周の一箇所から光が伸びている光景だった。
ぱっと見ではわからなかったがあそこには裂け目があるようだ。
そこへと脚を進め、近くで確認すると蛇行するようになった道がそこにあった。
光を追うと波打つような左右の壁が奇跡的に重なることなく一直線になる箇所があり薄紙一枚ほどの隙間が視線の先まで真っ直ぐ開けていた。
光が漏れるそのか細い隙間はほんの少し位置がずれただけで視線が通らなくなる。
日没直前の真横からの光がこの針のような隙間を通り一筋の光、光芒となっていたことがわかる。
光が真っ直ぐ壁に当たらず通れるのはほんの少ししかない隙間ではあるが、蛇行しているその裂け目じたいは一号のサイズであれば余裕で通ることができる広さだ。
おそらく雨が降った後にここを溢れた水が流れるのだろう。
また、この盆地の湖にまでやってきていた動物たちもここを通ってきたのだと思われる。
足もとを見ると今はほとんど水が残っていなかったが少しばかり湿り気を帯びており、他のところに比べ角が丸くなった石が多い印象だ。
考察している間に隙間の向こうから差し込む光が少なくなり完全に日が落ちる時間がきたのだとわかった。
流石に暗闇の中滑りやすそうなここを通って行くのははばかられる。
一度三号の視界に入る位置まで戻って休み、明日の朝から探索の続きを行うことにした紬。
その夜に雨が降り、朝には湖から溢れた水が裂け目へと流れている光景を見た紬の心中はやや複雑なものであった……。