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種
吾妻紬は確かに死んだはずだ……。
ならば今こうして思考している自分は誰なのかと考えるモノがここにいた。
脳死判定が間違いだったと気付いた医師が移植を辞めた?
いや、そんなことはなかっただろう。
そんな風に何の体もないことを考えながらも紬は自身の置かれた状況を把握することに努めていた。
結果わかったことはといえば、なにもわからなかったという事実であった。手足の感覚もなく、視覚も聴覚もない。あえて上げるならば渇きを感じるという程度か…。
はたして自分は本当に生きているのだろうか? そう考えるのも仕方がないことだろう。
紬の意識が戻ってからどれほど時間が過ぎただろうか?
ふとした瞬間、その身にある感触を覚えた。それは雨粒。傘を忘れた日の雨にうたれるあの感覚をその身に感じたのである。
その感触に紬はますます混乱した。
なぜ自分は雨にうたれているのか?
ここは屋外なのか?
落ちてくる雨粒がなぜこんなにも大きく感じられるのか?
この時はまだ知る由もなかったのだ。
吾妻紬は異世界に転生し、植物の種に生まれ変わったということに……。