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閑話 海の向こう



前の話が内容少ないので同時に投稿してます。前の話を読んでない人は注意してください。

 




 防波堤に打ち付ける波の飛沫が朝日に照らされ煌めき、港に停泊する大小様々なサイズの船舶が波に揺られていた。


 紬がいる無人島から海を挟んだ向こう側、遥か西に存在する港町。東大陸で……人類圏で最も東にあるとされる港である。


 そんな早朝のハルカナの港町は普段以上に騒々しい雰囲気に包まれていた。


 外海調査船。その極東担当の船が寄港したからだ


 外海調査船とは西大陸の大国であるリスタル共和国が外海へと派遣している船である。


 この世界の海は内海と外海の二種類に大別される。東西南北それぞれにある大陸に囲まれるような形で内側に存在しているのが内海。逆に大陸の外側に広がる海を外海と呼んでいる。


 比較的穏やかな海とされる内海に対し、荒れやすく外側に向かうほどに危険度が跳ね上がると言われているのが外海である。


 大陸から大陸へと渡る場合も外海よりも内海を経由することがほとんどであり、外海側の航路は陸地に沿って進み遠洋に出ることはまずない。


 大国と呼ばれるような内海と外海の両方に面している広大な国ならば内海の港のほうが発展しているし、外海のみに接するような小国であったとしても発展したといえるほどの港はほとんど存在しない。


 ここハルカナの港町は外海に面した港の中では発展しているといえる方ではあるが、他の国の内海の港街と比べればその規模は遥かに劣るだろう。


 そんな港町ハルカナのとある建物の一室、応接室の椅子に座っているのは、この辺りをおさめる領主その人であった。普段その椅子に座っているこの町の町長はその後ろに立って控えていた。

 普段は内陸に居を構えている領主がハルカナの港町までやって来たのには当然理由がある。

 港に寄港した外海調査船、その船長に急遽伝えなければならないことができたため船の寄港に間に合うように大急ぎでやってきたのだ。


 コンコンと扉がノックされ部屋の外から声がかかる。


「船長をお連れしました」


「通してくれ」


 案内されて扉から入ってきたのは日に焼けた肌をした大柄な軍服の男だ。男は姿勢を正し敬礼した。


「リスタル共和国所属、極東担当外海調査船へーレスの船長ダリオ・ヴェッセル大佐であります」

 

「長旅御苦労。私はファージマル国イステン領の領主、クエント・イステンだ……久しぶりだなダリオ。私たちの仲だ。堅苦しいのは無しにしよう」


 領主の言葉に軍服の男は敬礼を解き、ニヤリと口角を上げる。


「本当に久しぶりだなクエント。ニ十年ぶりくらいか?」


「そうだな私がリスタルに留学したときの同級生だからな。卒業してこちらに戻ってニ十ニ年になる」


「もうそんなに前だったか……お前が領主ってことは親父さんは?」


「隠居して元気にやっている。五年前に父から領主の座を引き継いだんだ。そっちは大佐で船長か」


「ああ、うちの家系は船乗り血筋だからな。外海調査船へーレスの船長として軍から出向した形になる。あくまでも軍艦ではなく国主導の民間の調査船って扱いにしているからな。軍艦じゃ他国の港には寄港しづらいんだよ。とりあえずこの港が最期の港なんだ。ここで補給を終えたら外海調査に向けて出港する予定だ」


「そのことなんだが、リスタルからギルド経由である知らせが入ったんだダリオ船長。調査船へーレスは全ての予定を白紙にしてハルカナの港で待機の命令だそうだ。緊急事態らしい。もしかすると船長じゃなく艦長として海に出なければならないかもしれんな……」


 待機命令の書かれた書簡を渡されたダリオは困惑顔であった。船長ではなく艦長として海に出るということは軍艦、あるいは艦隊を組んで海に出るということだ。


「おいおい、どういうことだよ。なにがあったってんだ?」


「魔王種だ……」


「は?」


「まだ確定ではないが魔王種が現れた可能性があるらしい」


「それが本当ならたしかにやばいな……ここの港でいったん足止めってことは外海調査に出る前に対処が必要になるってことか。魔王種はどこに出たんだ? 南か? それとも西まで戻らなくちゃならねえのか?」


「東だ」


「ん?」


「これから調査船を送る予定だった東の外海に魔王種が現れた可能性があるらしい」


「いやいやいや、これから調査船を送る予定だったのになんでその先のことがわかるんだよ? ここより東の調査は過去に失敗していたはずだろう」


「そうだ約百五十年前にハルカナから出港した調査船インコーニタは消息不明になっている。たが、その船と共に行方不明になっているものがあるんだが、それが今回の事の発端なんだ。町長、あれを持ってきてくれ」


 領主の後ろに控えていた町長が部屋の棚にしまってあったものを持ってきて領主に手渡した。


「ダリオ、これはお前も知っているよな?」


「ああ、リュージェンの書だろう。それならうちの船、へーレスにも積んであるぜ」


「そうだ。この本はリュージェンの魔導書、その写本だ。知っての通りこの本はリスタルの賢者リュージェンが書いた魔導書で今ではリスタル共和国とその同盟国を中心に数千冊が出回っている写本だ」


「これが有るか無いかでかなり違ってくるからな。デメリットよりもメリットのほうがでかいと判断したとこは間違いなく導入してるだろう」


「これは写本だからその力もデチューンされているわけだが、賢者が直接作った魔導書の原本は十冊あって、その力も桁違いだったらしい。その十冊のうち九冊はリスタル共和国の魔塔が管理して所在を把握できているらしい」


「じゃあ残りの一冊ってのが……」


「ああ、外海調査船インコーニタと一緒に行方不明になっていた。なっていたんだが最近になってその本が開かれたらしい。魔力が注がれて龍脈を通じてパスが通ったことでここからさらに東にいった海の向こうの座標で反応があったらしい」


「なるほど、魔導書の起動はそこらの野生動物や魔物じゃ不可能だし、少なくとも知能がある程度高くねえといけねえんだよな」


「そして注ぎ込まれた魔力は未登録のもので、その量からも魔王種の可能性が高いと推測されているらしい」


「それでただでさえ危険な調査だったとこに魔王種の可能性があるから出港は延期になったってことか……さて、このあとはどうなっちまうんだろな……」


「リスタルは本気でこの問題に取り組むらしいな。あの人がこちらに来るそうだ」


「あの人? もしかして……」


「聖女だ。リスタルの聖女がこちらに来るらしい」










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― 新着の感想 ―
[良い点] 戻ってきてくださってありがとうございます! 様々なものがうごきはじめているなか、紬さんは無事スローライフな羊生を謳歌できるのか、これからも楽しみにしています!!
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