羊の血
攻撃を受け止めて防ぐことは難しい。ならば回避に徹すれば良いのかといえば、それもまた難しい状況であった。
距離を詰めてくるスケルトンの刺突剣を回避し続けるのは船内という環境は狭すぎる。これまで紬が行った戦闘は森の中や岩場などの屋外という環境であったからこそ回避主体の戦法を取ることが出来ていたのであり、屋内という狭い限られた空間で戦うという状況に紬は馴れていなかった。
普段通りに突進してしまえば自分から刺されに行くようなもので、逆にスケルトンの方から距離を詰めてくるのを防ぐために分枝の魔法の根で足元を狙うようにしているところだ。
そして受けるのではなく剣の腹を弾くことで斬られ刺されることを防ぐ。とは言え刺突剣という細身の剣の腹と呼べる範囲は狭く、少しでも読み違えれば弾くどころか斬られに行くような形になってしまうため成功率は高くない。
生前の動きを死してなおも覚えているのか、スケルトンの巧みな足さばきから繰り出される刺突剣の猛攻によってどんどん傷が増えていく。
再生の魔法を使って入るのだが流れ出たものについては戻ることはない。板張りの床には傷からこぼれた赤い血溜まりが徐々に広がりつつあった。
攻め立てるスケルトンと対処に追われる紬。スケルトンが血溜まりに踏み込んだ時その戦況が動いた。
血溜まりから蠢きスケルトンの足に絡みつくように這い上がる。バロメッツの動かす魔法だ。水を生成する魔法や魔素を含む水に干渉して動かす魔法を使うよりも自身の血を動かすほうが遥かに効率よく動かすことができるのだ。
血の拘束に足をとられたスケルトンの動きが一瞬止まる。その機会を逃すまいと突撃する紬。
スケルトンは足をとられバランスを崩しながらも向かってきた紬に刺突剣を振るおうとした……だがそれもままならない。刺突剣を見ればそこに銀の輝きはなく、それは赤く染まっていた。刺突剣も同じようにバロメッツの血が纏わりつき、動かす魔法によってスケルトンの意思とは異なった方向へと引っ張られ、さらに体勢を崩すこととなった。
肉を切らせて骨を砕く。
それが今回の紬の立てた作戦。防ぎきることができない攻撃に血が流れるのは必至。ならばその血をもって活路を見出す。
刺突剣はもう間に合わない。このまま突撃し押し倒して頭を砕く。
押し切れると思った紬の目の前にスケルトンが左手を突き出す。
今まで半身の腰の後に隠れていた左手が握っていたソレを見た紬はその光景を信じたくなかった。
突きつけられた銃口。
突進していった紬の眼前に突きつけられた拳銃。引き金が引かれバンッと音が炸裂した……。