知らない銀
船長室のスケルトンとの戦闘が始まって数分、紬は攻めあぐねていた。むしろ圧されているというのが現状であった。
その要因の最たるものはスケルトンキャプテンの持つスモールソード。レイピアを小さく軽くしたようなその刺突剣はどのような金属が使われているのか、羊たちに纏わせた鉄のコーティング鎧では防ぎきることができなかったのである。
戦闘の初手をとったのはスケルトンの方だった。目にも止まらぬフットワークで接近し、刺突剣による突きを放ってきた。とっさに対応した紬は頭を振って角で弾こうと試みて失敗した。
鉄でコーティングしていたにも関わらず刺突剣を弾こうとした角は切り落とされてしまったのだ。これは危険だとその場から飛び退かなければ殺されていただろう。角だけでなく鎧兜のように頭に纏っていた鉄さえも貫通し、その切っ先は皮膚を裂いて血をこぼさせた。
これ以上の接近を許さないよう、紬は分枝の魔法で根を何本も伸ばすことで牽制した。スケルトンの戦闘スタイルはヒットアンドアウェイのようで攻め切れないと見るとすぐに距離を取って構え直し、こちらの出方を伺っているようだった。
薄っすらと虹色の光沢を放つ銀の輝き。そのスモールソードの素材となった金属を紬は知らない。易々と鉄のコーティングを突破したことからかなりの硬度を持つ金属なのだろう。もしかすると前世の世界には存在しなかったこの世界特有のものという可能性がある。
傷と切り落とされた角は樹皮大蛇から得た再生の魔法を使うことで回復することができた。しかしいくら回復できるからといって無制限に回復できるわけではない。これまでの探索で魔素のストックも潤沢とは言えなくなっているのだ。
傷を受けた際に鉱物生成の魔法の条件である紬が触れたことのある金属という条件は満たしたことになったので、刺突剣の素材である金属を生成してコーティングすることで防御力を上げて攻撃を防ぎきることができると考えた紬であったが、いざ鉱物生成の魔法でその知らない銀を生成しようと試みたところ、まるで生成することができる手応えを感じることができなかった。
魔素が足りていないのか、それとも鉱物生成の魔法の練度が足りていないのか、あるいはその両方か……。ともかく今の紬では謎の金属を生成することはできないようだった。