刺突剣
吹き飛んだ扉がスケルトンに衝突することはなかった。衝突する前に切り払われたからだ。切り払われた扉はスケルトンの斜め後ろにあった棚にぶつかり、たまりに溜まった埃が舞い上がった。
部屋の中に居たのは剣を持ったスケルトンで軍服のように見える服を纏っていた。手に持つ剣は細身の刺突剣……スモールソードと呼ばれる種類のものだと思われる。
例によって友人Aが語っていたうんちく話からの知識であるが、アニメやゲームなどでレイピアとして扱われているものをイメージするとかなりの割合で実のところレイピアではなくスモールソードだったりするらしい。
軽々と扱われているイメージがある細身の刺突剣。スモールソードはレイピアの後継であり60〜85センチ程の比較的短めで細身の刀身を持つものだ。そしてレイピアはというと120センチ前後が標準という長い刀身を持つ片手剣であり、重さも日本刀と変わらない程の重さだったらしい。
フィクションの中でのように片手で軽々と扱うには重さと長さを考えると難しいだろうというのが本来のレイピアで、佐々木小次郎の物干し竿と変らないくらいの長さなんだそうだ。
ついでに言うとしなるようなことも無い。しなるのはフェンシングで使われるフルーレなどで刃がないものなので物を切ることはできない。
そんな訳で目の前のスケルトンがもつ刺突剣は、扉を切り払ったことから刃があるためにフルーレなどではないし、長さもそこまで長くないのでレイピアを小さく軽くしたスモールソードが当てはまるだろうというのが紬の見立てである。
もっともこの世界でどう呼ばれているかはわからないのだが……。それこそ様々な技術を伝えているだろうと思われる人物が間違った知識を伝えていないとも限らないのだ。
部屋の中に居たスケルトンは扉を切り払った刺突剣を持つ右手を一度引き寄せ刀身を立てて目の前に、左手を腰の後ろにといった構えを取ってから刺突剣の切っ先を紬に向けて来た。左足を後ろに引き、半身の構えと言った感じである。
これまでに遭遇したスケルトンとは違う。ただ振るうだけではない。その構えには確かな技術があるのだと感じ、一筋縄ではいかないだろう威圧感を紬は感じ取っていた。