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 船倉の船尾側の壁にあった扉を開く。


 幸いにしてこの扉に付いているのは丸いドアノブではなく、レバータイプのハンドルだったので羊の身体でも開けることができた。


 この船は基本的には木材をつかって造られているようだが、所々に金属の部品が使われているようだった。


 この木の扉に仕込まれた金属製のドアレバーもそうだが、扉を止めている蝶番やネジなどがそうだ。


 そしてネジを見て気づく。頭に刻まれた十字、これはプラスネジだ。


 ネジの歴史は古く、ギリシャ時代、つまりは紀元前には既に機械に使われていたらしい。


 そんな古い歴史を持つネジであるが、プラスネジというものが世に出たのは二十世紀のことであるそうだ。


 もともとはマイナスネジしかなかったのだと、例の如くどこで必要になるのかわからない雑学をドヤ顔で披露していた友人の顔を紬は思い出していた。


 そういう知識を元にこの扉の蝶番を止めていたネジについて考察すれば、この船を作った文明の技術力はかなり高いものなのだろうと思われる。


 そしてプラスネジをしばらくじっと見つめ思考の海潜っていた紬は、考えがまとまったのか行動へと移り、扉の接合部に蹴りを入れ始めた。


 脚力強化の魔法を使わなくとも羊の蹴りはそこそこの威力がある。造られてからかなりの年月が経過しているだろう木造船の壁は経年劣化も少なくなく、バキリと音を立てて割れた。


 最初は鉱物造形の魔法でプラスドライバーでも作ればいいかなと考えたりもした紬だったが、プラスドライバーを作ったところで羊のひづめではまともに使えないし、分枝の魔法での根っこを使っても捻って回すという動作は難しそうだと判断。なにより、先ほど魔法は控えようと決めたばかりだったということもあり、ネジを回収するために蹴りによる破壊活動という手段に行き着いたという訳だった。


 残骸の中から回収したいくつかのプラスネジを見比べた紬はある予想を持ったが、たった数個のサンプルから決めつけるのはまだ早計だと思い、別のサンプルを探しに上の階へと進んだ。


 階段を登った先。真っ直ぐに伸びる廊下の左右にいくつかの扉がならんでいるのを確認し、紬はこの階層の探索を開始した。


 扉の造りは先ほど壊したものと相違無く、レバータイプの取っ手がついた木製の扉であった。扉を開くとなかは二段ベッドが二台あるだけの小さな部屋となっていた。


 察するに四人部屋ということなのだろう。ただ私物の類はなさそうなのでただ寝るだけの部屋といった感じだ。


 小部屋の中は特にこれといって気になるものはなかったので、ここの扉からもネジをサンプルとして回収したあと隣の扉へ、また次の扉へと紬は小部屋を確認しながら順繰りに金属パーツを回収していった。


 途中いくつかの部屋には部屋の主の成れの果て、白骨遺体が転がっていた。紬は軽く黙祷し、念仏を念じてから死体を観察していった。


 この階層で見つけた人骨のいくつかは鎧のようなものを着て武装していたらしい。カビが生えてしまっている革の鎧。海上での武装、金属鎧だと万一海に落ちたらすぐに沈んでしまうという理由から革鎧という選択だったのだろう。この革鎧はもう使えそうになかったが、死体の傍らには長剣も転がっていたので、紬は剣を回収した。


 剣を回収した小部屋から出た紬は亀裂を目の前に思考を巡らせる。船を両断している亀裂は当然のごとく廊下を前後に隔てているために、向こう側へ行こうとするならばこの亀裂を飛び越えるか何かを渡して橋の代わりにすることが必要である。


 亀裂を覗きこめば階下の船倉が、上を見上げればもうひとつ上のフロアがあり、さらにその上には船の甲板(かんぱん)が見える。


 そしていつの間にかかなりの時間が経過していたようで、気付けば空にちらほらと星が輝くほどの時間になっていたようだ。もうすぐ日も沈んでしまうようでかなり薄暗くなってしまっている。


 とりあえず今日は探索を取りやめ、手頃な部屋に泊まる準備でもしようかと思った時だった。


 カラカラと、かん高い音が廊下に響いた……。






 

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