人骨
紬が見つけた白骨遺体。船首側に滑って固まった積み荷の残骸の中にあったそれはこの世界にも人類がいたという間違いない証拠だった。
積み荷に押しつぶされて死んだ……というかんじではなく、この船倉で死んでいた遺体が積み荷とともに滑って一箇所に固まったのだろうというのが紬の見立てだ。
白骨遺体の身の上で考えられるのはこの船の船員か乗客だろう。流石に積み荷であったとは考え辛い。
そして船首側に偏った残骸の中には少なくとも二人分は遺体がある。目に見える範囲で頭蓋骨が二つ見えているからだ。
白骨化した頭蓋を観察するに、どちらの頭も角があったり牙が伸びていたりといった変な特徴はなく、紬が知る一般的な人類の特徴を持った存在の骨であると思われる。
どうしてここで死んでいたのか? そのようなことまでは読み取れない。病死したのか、誰かに殺されたのか、餓死したのか、物言わぬ死体からは死因はわからなかった。
肉も皮も腐り落ち、白骨だけが残るまでにどれほどの年月が経っているのかわからないが、相当長い間放置されていたのだろう。
紬は手を合わせ……ようがないので黙祷し、心の中で軽く南無、南無と念仏を唱え名も知らぬ遺体の冥福を祈った。
本来なら南無の後に阿弥陀仏などと続けるのだろうが異世界で阿弥陀様に祈って通じるのかわからなかったので紬は南無までにした。南無阿弥陀仏の南無とは帰依するという意味、つまりは縋り頼りにするという意味だ。異世界での頼り先が神か仏かわからないのでとりあえずそこは空白にしたという形だ。
船首側に偏った残骸の中をもっと探せばまだ他の遺体も見つかるかもしれないが、そうしようとするならば魔法を使うことになるだろう。羊の身体ではまともに物を掴めないからだ。そして今は魔法を使わず消耗を抑えるべきだと紬は考える。
なぜなら植物本体から離れて活動する羊の身体は自然に魔素が回復することはない。食事などで補う必要がある。そしてここは船のなかで、食料となる草など生えていない。魔法を使い消耗してしまうと紬には回復手段が無いという訳だ。
そのような理由から消耗を抑えつつ船内をまわるという探索方針にした紬。
ここはとりあえずもういいかなと、船尾側の壁にある扉へと向かった……。