船倉
風雨に長く晒されていたであろう船の外観はボロボロで、帆が張られていたであろうマストは三本とも半ばから折れていたし、黒色の船体のために目立ち難いがあちこちに大小様々な穴が開いていてる。
たしかペリーの黒船の船体の黒色も防腐剤由来だったかな?
そんなことを思い出しながら、朽ちた船のなかを調べるべく紬は真ん中のマストの付近から縦に大きく割れた裂け目へと歩を進めた。
裂け目から船内へと侵入した紬を出迎えたのはジメジメとした湿気を含んだ重い空気。打ち付ける波や湿気をはらんだ海風が穴や隙間から侵入し、乾き切ることなく淀んでいるのだろう。
照明などはないが、穴や亀裂から差し込む光の筋によって視界は薄暗闇程度にとどまっている。
あたりを見渡すと木箱やガラスの瓶、さらにそれらの残骸と思われる木片やガラスの欠片が床に散らばっている。
縦に真っ二つとなった船体の前半分は落ち込むように傾いているため、多くの残骸は船首の方向へと滑り固まっていた。
比較的原型をとどめている木箱の中身をいくつか確認したところ、酒瓶が詰まっているものや、ぐずぐずになった何かの残骸、おそらくは食べ物か何かだったであろうものが詰まっているものなどがあった。
どうやら船底のこの部屋は船倉として使われていたようである。
多くの瓶は割れて中身が抜けてしまっていたが、数本だけ割れずにいたのを見つけた紬は分枝の魔法で伸ばした根を器用に扱い酒瓶のコルク栓を抜いて中身を確認した。匂いと色から中身は赤ワインであると紬は判断した。腐ることがないという点で長い船旅の水分補給の手段の一つだったのだろう。
このワインがどれくらい前のものなのかはわからない。一応確認してみたが瓶に製造年などは入っていない。たとえ製造年が記されていたとしても今がいつなのか紬は知らないし、そもそも紬がこの世界の文字を知らないのだから読み取り理解することができる可能性は低いだろう。
そして船首側に滑って固まってしまっている積み荷の残骸の中に、とあるものを見つけた紬は顔をしかめた。
それは間違いなく人類の存在の証明であったが、それを見て素直に喜ばしいとは紬には思えなかった。
それは一言でいえば人の白骨遺体であった……。