文明と瓶
紬が見つけた空き瓶。それをじっくりと観察し、その瓶から読み取れる情報を整理する。
変に深読みすることなく考えるならば、こんな空き瓶が自然に形成するようなことはまずあり得ないので、この世界にも文明と呼べるものがあるという証拠なのだろう。
見た目は酒瓶だろうか? ワインボトルのように見えるそれの色は半透明の緑色。飲み口の形状からねじって開け閉めするようなタイプではなく、コルク栓かなにかで蓋をするようなタイプだろうと見当がつく。飾り気はなく、刻印のようなものもラベルも見当たらないのでどのような用途で使われていたのか予想することも難しいが、そもそもラベルのようなものがあっても文字が読めるかもわからない。
紬の前世の知識を当てはめるならば、緑色のガラスは赤ワインが瓶詰め後の光による劣化を防ぐという理由から赤の補色に当たる緑色に着色されているらしいので、この瓶には赤ワインが入っていたのかもしれないなと紬は予想する。
瓶の細長い形状についても紬が知るものでは、船の積み荷としたときの利便性などからあの形状となったという話を聞いたことがあったので、この瓶を作った文明も船のような大量輸送の手段があるほどには発達した文明であるかもしれない。
瓶を観察することで予想できるのはこのあたりまでだろうか?
製造法なども気になるところではあるが、工場のような施設で大量生産されているようなものなのか、工房のようなところで職人が手作業で作っているようなものなのか、はたまた紬が所持する能力、鉱物造形の魔法のようなもので形成したようなものなのか、見ただけではまるで判断がつかない。
他に見てわかることと言えば、この瓶の大きさからこの瓶を作った文明は紬が知る人類と大差ないだろうということだろうか?
まさか巨人の目薬が入っていたなどということはないだろうから、このサイズが日常的に使われる一般的な大きさの瓶だとすると作り手も使い手も人間大なのだろうと予測できる。
どのような来歴でこの浜に打ち上げられていたのかはわからないが、もしかすると他にもこの文明に関わるものが打ち上げられているかもしれないと思った紬は、海岸の探索を続けるのだった……。