跳躍
転がるようにその振り下ろしの一撃を避ける四号。立ち上がりすぐさま地面を蹴って距離を取った。
そうすることが狩りの効率が高くなると知ってのことか、距離を取られたカマキリの異形はまたも姿を消していく。
俯瞰の魔法を発動していなければ今の急接近を紬は理解できなかったかもしれない。
あれはただ跳び込んで来ただけだ。ただ跳んで目の前に着地しただけ。俯瞰の魔法でその動きを追うことができたのだからテレポーテーションだとかそんな滅茶苦茶なものではないと紬は理解した。それがわかっているだけでもかなり違ってくる。
もしも空間跳躍のようなものだと勘違いしてしまっていたならばまともな対策を思いつけなかったかもしれないが、そうでないとわかっている今ならば対処は可能だと紬は準備する。
ストックしていた分枝の羊を使って眠りを誘う煙の魔法を薄く広く散布する。催眠効果はほぼなくなってしまうが、もともと分枝の羊が使うと元の能力よりも効果が落ちているので眠らせることを期待しての行動ではない。
広く散布した煙によって姿を隠すカマキリの異形の居場所を把握しようというのが思惑だった。
姿を消したとしても存在自体が消えるわけではないことはわかっている。あたり一面に広げた煙があれば見えなくなっている場所の特定は不可能ではない。不可視の空間を迂回した先を見ることになるので結局は煙が見えるわけだが、四号の視界は普通の視界だけでなく上から見下ろす視界がある。
俯瞰の魔法による視界には煙が満ちる空間の中で一部だけ地面が見えている場所を捉えていた。その場所こそが不可視の空間。横からならば殆どわからない違和感しかないが、上からの視線はその空間を迂回して地面へ届く。
そこがそうなのだとわかっていれば横からの視線でもその空間が不自然であるとわかる。その空間を迂回して先の煙が見えているために遠近感に違和感が生じているのだ。
そこへと向けて紬は攻撃を落とす。
分枝の羊の次のストックを使って水を生成する魔法を発動したのだ。本来であれば分枝の羊の使う魔法はスペックが落ちてしまっているのだが、長雨の影響で今の樹海の中でならば普通に使うのと遜色ない量の水塊を用意することができていた。
可能であれば槍の雨を降らしたいところであったが、あれは複数の魔法を使う。分枝の羊のストックをほとんど食い潰してようやく実践レベルになるといった感じだったため、ストックの温存できる手段を選んだのだった。