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考察



 羊のなる木、バロメッツには水分と栄養が必要である。ならばこそあの牝鹿は獲物だ。確実に仕留め、その血肉を糧とすることを紬は決断した。


 ではどのようにすればあの牝鹿を狩ることができるだろうか?


 紬は知恵を絞り考えを巡らせる。

 道具の類はない。たとえ道具が在ったとしても羊の前脚では満足に扱うことはできなかっただろう。

 ならば罠はどうだろうか?

 すぐに思い浮かぶのは落とし穴だ。だが今から落とし穴を用意することは難しいだろう。今回は却下。今後使う事を要検討ということにした。


 結局己の身ひとつで鹿を狩らなければならないようだ。

 では肉弾戦? 羊部分の成長に必用な栄養を根の成長に回していたため体格はあちらのほうがいい。体当たりや蹴りであの牝鹿を殺すことは容易ではなさそうだ。

 植物の葉は囮程度にしかならないだろうし、最近力を入れていた根で貫くなんて事も無理そうだ。普段から素早く動かす練習でもしていたならば可能であったかもといったところか……。


 あと残っている部分はといえば…茎部分くらいか。まるでゴムのように伸縮性がある異常に柔軟な長い茎を使うことでどうにかできないだろうかと紬は考える。


 長い考察の末、その答はでた。


 狙うはその首だ。牝鹿が近寄りその範囲に入ったならば、伸ばした茎部分を巻きつけ絞殺する。茎を伸ばし動かすことは今まで十分に数を重ねている。それが今可能な手段であると紬は考えた。



「めぇー」


 その鳴き声に反応した牝鹿がこちらの方に目を向けた。そして視界に入るのは無駄に背の高い植物だ。

 声はすれども姿は見えないことを不思議にでも思っているのかもしれない。まさか二メートルを越す植物の先端にいる羊が鳴いたのだとは思うまい。


 好奇心を煽らられたのか、やや警戒しながらも近づいてきている牝鹿。紬は息を殺してその時を待つ。


 

 そして狩りの時間は来た。茎を大きくしならせながら牝鹿の背後に着地した羊。その身体にへその緒のように繋がる長く伸ばした茎は狙い通り牝鹿の首に巻くことを成功した。

 あとはあの定位置に戻る時のように茎を巻き戻す要領で収縮し、その力を持って牝鹿の首を締め上げていく。


 と、ここで予想外出来事が起こる。牝鹿の体が一回転し地面に大きな音をたてて叩きつけられたのだ。

 この原因は力の掛かり方が悪かったからだろう。首に何度も巻きつけていれば違ったのだろうが、そんな余裕がなかったので巻きつけたのは一度のみ。力が歪に掛かり強く引かれたために牝鹿が捻られるように転がったのだった。


 牝鹿は身体を強く地面に打ち付けた衝撃で首が折れていた。


 想定とは違った結果であったが目的は達した。結果オーライだ。紬は蹄を振り降ろし牝鹿の頭を割った。そこから流れでた血を吸い取り根へと水分と栄養を送る。


 紆余曲折あったが根は目標にたどり着いた。多くの水が揺蕩うその湖に……。

 

 

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