断頭台
樹皮のような表皮を切り裂いて身体に食い込むギロチンの斜め刃。
しかしその刃は大蛇の背骨で止まり、その頭を切り落とすことはできなかった。
それどころか樹皮大蛇の能力、再生の魔法が発動して噴き出る鮮血は止まり、かわりに撒き散る火花とともに再生する傷口を塞ぎ盛り上がろうとする新たな肉に刃が押し出されかける。
けれども紬は予想していた。ただ刃を落としただけでは断ち切ることができないという可能性を。
斜め刃の背に三号が着地する。石の壁から飛び出した時点からその脚には魔法が、脚力強化の魔法の効果が宿っている。
併せて加重の魔法も使い、全力で刃を蹴りつける。
ゴリンッと骨が削れ、肉を断つ音。どすんと断ち切られた頭部が地面に落ち、切り口からは噴き出る血が止まらない。首を切り落とされた胴体は切断面から血を撒き散らしながらのたうちまわっている。
そして三号と切り落とされた樹皮大蛇の視線が交わる。
たとえ首だけになろうとも噛み殺す。そんな怨嗟の念がこもった視線。さらには傷口からは血だけではなく火花も飛び散り魔法を発動しようとしていることが見て取れた。放っておけばそこから再生することも可能なのかもしれない。
首を落とされてもしばらく動き続ける蛇の話はそう珍しいものではなく、紬もそのことを知っていた。
だからこそすでに紬は手を打っていた。真の決着は頭を潰すこと。三号と樹皮大蛇の視線が交わったのは偶然ではない。しっかりと狙いを定めるために落ちた頭を見ていたのだから……。
蛇の異形の頭に落ちるは鉄の槍。鉱物生成の魔法と鉱物造形の魔法で造った鉄の槍に、硬化の魔法と加重の魔法の効果も載せて落されたトドメの一撃。
刃の背を蹴りつけ再び宙へ跳んだその時から三号の視線は目標の頭を捉え続け、頭が落ちる先を見越して攻撃を放っていたのだ。躱すことなど不可能であった。
狙い落とした鉄の槍は大蛇の頭を穿いた。
槍の穂先が脳を破壊し、魔法の兆候である飛び散っていたスパークも収まった。
蛇の異形、樹皮大蛇は完全に沈黙したのだった……。