分断
二本目と三本目の石柱の間にあった大蛇の頭が大きな口を開けて牙を剥き、羊たちを丸呑みにしようと前に出ようとする。
しかし、それも紬が発動した魔法によって遮られる。鉱物造形の魔法が発動し、今度は石柱ではなく石の壁が蛇の目の前に立ち塞がるように盛り上がった。
これで蛇の首は左右の石柱と眼前の石壁によって動きを大きく制限されることとなった。残るは後方だが、本来蛇というのは後退することが不可能ではないが得意と言うわけではない。
実のところ、石柱は分枝の羊の魔法によるもののために、本来の割り振られた魔法よりも精度が落ちるためにそこまで強烈な攻撃というわけではなかった。
ただ、樹皮大蛇からすればこちらが使った石柱は自身を傷つけた槍の雨という存在があり、それとは違う材質のものだということに気が付かなかったために石柱を躱していったのだろう。正直なところ上手く当たれば串刺しにすることもできるだろうという言葉の通り、上手く当たらなければそれほど脅威になるような攻撃ではなかったというのが実情なのだが……。
蛇の視覚では鉄と石の違いを攻撃を受けた時のとっさの判断で見分けることはできず、そもそも頭の下からの攻撃だったため視界に入ってすらいなかったという理由もあり、本気で蛇の異形が暴れれば折れてしまうような石柱であったということにすら気がついていないのだろうと紬は思った。
そして蛇の異形を上から見下ろす二つの眼。
それは上空に跳んだ三号のものだった。石の壁は三号の足元から迫り上がり、その勢いに乗ったまま三号は脚力強化と浮遊の魔法を用いて蛇の頭上に跳んでいたのだ。
その三号の視界を借りて一号が狙いを定め、魔法を使い刃を形造る。二本目と三本目の石柱の間に現れた斜め刃の左右の端は筒状になっていて中に石柱を通している。これで刃の向きは下を向いたまま真っ直ぐに落ちることとなるはずだ。
本物は柱の溝に沿って刃物が落ちるのだろうが、今回の場合どの石柱の組み合わせでいけるのか不透明であったのと、柱の溝とその溝に合う刃にする調整をできる時間も技術も無かった。
そんな理由から本来のものとはやや異なるものとなったが、紬が魔法を用いて即席で用意したそれは斬首刑の執行装置、ギロチンであった。
その斜め刃が大蛇の首を分断せんと、重力に引かれて落ちていく。
そして鮮血が宙を舞った。