石柱
蛇の異形の頭を潰す。更に言えば四号の援護に向かうためになるべく早く。そしてカマキリの異形との戦闘も予想されるため、戦闘が可能なだけの余力を残しておく必要もあるわけだ。
今ある使える手札を確認しつつ、大口を開けて突っ込んできた怒り狂う蛇の異形の攻撃から逃げる。
樹皮大蛇の移動速度はそれほど速いわけではなく、どちらかといえば地を這うその進みは遅いものだ。
しかしそれは全体としての速さである。身体の両端、もたげた鎌首や振り回す尾は鞭のようにしなり襲い掛かってくる。
あの太い巨体に詰まった筋肉をもってしての瞬発力ということだろう。もしもあの攻撃に触れてしまえば車に撥ねられたようになってしまうだろうと容易に予想出来てしまう。
一号たちが攻撃の対処に専念している間にカルデラ湖に居る留守番組の羊たちの頭で知恵を絞り、策は練られた。
実行に移すタイミングを見計らっていた紬は噛み付いてきた蛇の異形の牙を避け、攻撃の直後の瞬間を狙って魔法を使う。
眠りを誘う煙の魔法。これまで何度も使ってきた便利な魔法であるが、経験上大きな体を持つ相手には効きが悪い。おそらく樹皮大蛇も一瞬動きを止める程度だろうとはじめから割りきって放った魔法であり、本命は別にある。
紬は立て続けに魔法を行使する。眠りの煙を受けたことで一瞬動きが止まった大蛇の頭の下から鉱物造形の魔法で作られた石柱が大地から飛び出す。
これはかつて蜘蛛の異形が紬の進路を塞ぐために使った石の壁と同じような手法で地面から伸ばしている。丸太ほどの太さの石柱の先端は円錐状に鋭く尖らせているので上手く当たれば串刺しにすることもできるだろう。
だが、蛇はすぐに眠気から脱して頭を右に動かし一本目の石柱を避けた。そのまま二本目の石柱も右へと躱し。その少し先を狙って下から突き出た三本目の石柱も少し左へ頭を戻すことで避けきっていた。
蛇に聴覚はなく、かわりに大地の振動から周囲の状況を把握することができるという。地面からの石柱は蛇にとってはかわしやすいものだったのだろう。
一号たちの羊毛に隠れるようにストックしていた分枝の羊。それを使った連続の魔法行使による石柱であったが、実のところこれもまだ本命の攻撃ではない。
この石柱は下準備だ。複数の石柱によって頭の動きを制限するためのもので、もう少し本数が必要かと思っていたが分枝の羊のストックの消費は三体に抑えることができた。今現在上手い具合に二本目と三本目の石柱の間に蛇の首がある。
条件は整った。あと数手で詰みだと紬は内心ほくそ笑んでいた。